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ジェンダー法学会編『講座 ジェンダーと法 第1巻 ジェンダー法学のインパクト』日本加除出版株式会社 2012年

 1巻は全4巻の先頭に位置するので、国際性をふんだんにおりこみながら、ジェンダー法学成立までをふりかえり、ジェンダー法学が明らかにしてきた近代法の枠組(近代法の「ひと」とは女性を含まない男性だった)とこれからの課題を展開する(ここまでは、ほとんど編者はしがきからの受け売りである)。すでに、本の冒頭で、1巻の編集委員がその概要を研究者の視点でしっかり紹介されているので、以下では、単なる一読者として主観的に紹介する。著者を姓のみで示すことをご容赦願いたい。
T部
 冒頭、日本の法女性学の先鞭を切った金城(法女性学という著書の題名や法律雑誌での連載のインパクトは今も忘れられない)による「日本におけるジェンダー平等の受容と展開」は、女性差別撤廃条約が、機能平等論(男女の役割が異なることを前提とした平等論)を克服し、女性保護規定を見直し、女性差別撤廃宣言(1976)が、出産に由来する保護のみを女性に対する保護とし、長時間労働の禁止など削除したことを今一度思い出させ、つきつける。保護と平等は今もなお、ジェンダー法学をゆさぶる論点である。講座全4巻の著者の中でも、個別の問題になると意見が分かれる。例えば、不貞相手方への慰謝料や有責主義を残す離婚制度は、女は婚姻で生きる(男に養われる)という最たる役割分業型婚姻を維持しようとするものと考えるか、いまだ女性を弱き保護の対象と捉えその保護を手放すことに反対するか。条約に戻ればめざすべき原点を確認できるのではないか。「女性差別撤廃条約の日本へのインパクト」(山下)の女性差別撤廃条約のこれまでの日本についての審議・勧告・日本に課せられた義務等の総整理は、コンパクトな資料としてとても重宝する。「『ジェンダーと法』に見るジェンダー法学会の動向」(神長)は、これまでのジェンダー法学会の学術大会や機関誌でのテーマをすべて振り返るという面白い試みをし、オルセン、マッキノンの簡単な紹介をし、日本への影響を論ずる。この2人の外国人は著名ではあっても、ジェンダーに関心のない者には全く知られない存在であり、初めてという方はここで簡単に勉強を。
U部
 「法制度としての性別」(広渡)は、一見難しいが、法学部生ならば、民法の最初に越えなければならない壁、権利能力、行為能力、意思能力の概念から女性のおかれてきた位置を解説し、(日本の法学者が最も好きではないかと思う)ドイツ法を基軸にして展開しているので、わかりやすいかもしれない。「リヴァイアサン」(1651年)まで出てきて濃厚な歴史・文化の香りがする。性を二分化し、特権化した異性婚をのりこえていくべき方向を示す。「21世紀型(現代型)非対象関係における法の役割」(井上)は、私には苦手な領域である。ジェンダー論による公私二元論批判、親密圏の現代的意義、非対象性問題、これからの課題などがDV事案を例にして論じられる。もう少し多様な具体的事案とつなげて論じられると、初心者にも近寄りやすいものになるのではないか。「家族法システムの改革とジェンダー秩序の変容」(三成)は、日独の家族法システムを具体的に対比しながら、ジェンダー主流化・公私二元論の日独の違い等を示す。日独対照表は非常にユニークで興味深い。「面会交流とDV」の日独の対比にふみこむと、ジェンダー論と子の利益論の交錯、日本の議論の特殊性・位置がもっとみえるのではと思う。「ケアの倫理と法」(岡野)はアリストテレスの正義論まで遡り(こういう紹介は大好きである)、マッキノン、キティ、ファインマン(2巻に論文)らの伝統的平等論批判を経て、同性愛者らの異性婚に限らない多様な相互依存関係を認める要求を紹介しつつ、ケア関係を基礎とする平等の社会へと結ぶ。公私二元論批判・異性婚至上主義批判と関係する論文が続くが、著者により表現も違うので、複数読むと理解が深まり面白い。
V部
 「国際法/暴力/ジェンダー」(阿部)は、武力紛争の国際法学(自衛権の肯定)と男の女に対する暴力(私生活における)を対比しつつ、暴力の正当化ではなく例外化、暴力の非正当化を深めるべきとする。紛争と国際法を短い文章で勉強でき、面白い。「女性差別撤廃条約」(林陽子)は、女性差別撤廃条約の変容・発展を紹介する。金城、山下、川眞田とあわせて読むと奥行きが深くなる。著者は弁護士であり女性差別撤廃委員会委員であるので、理論的であり実に実践的である。つまり、国内での訴訟の理論を提供してくれている。ジェンダーに関心のある若手法曹が増えた今、もっと、条約を使って訴訟を、と思う。「平和・安全保障とジェンダーの主流化」(川眞田)は、国連安全保障理事会1325の紹介、意義と限界を述べる。時間のない人には、160頁の概要紹介だけでも読んで知ることをおすすめする。しかし、日本は、力があるはずであるから、限界(165頁)があるという国連を頼る前に、ジェンダー主流化のためになすべき方策が山のようにある。
W部
 「東日本大震災とジェンダー」(小島)は仙台で震災を経験した著者の秀作である。震災とジェンダーの課題は、今後の震災にも生かされるようしっかり文字に残してほしい。「ジェンダー視座による残業規制の分析」(笹沼)は、時間外労働を拒否して社縁社会から距離をおき、新しい世界をと説く。ここで書かれた長時間労働をしたい願望の方向のほか、若い男性に増えてきたイクメンの時間外労働との桎梏、社縁社会との上手につきあいつつ距離をおく具体策などが必要と思う。「「法の支配」と男女共同参画」(小川)は、日本弁護士連合会の男女共同参画推進本部設置までの流れを紹介し、今後の方向を示す。外に向かって人権問題を解決してきた弁護士たちが、20世紀終わりから、会内の古色然としたジェンダー問題にも強く解決をめざすようになった。ロースクール入学者、司法試験合格者のうちの女性は3割を超えにくいだけでなく、減少傾向である。これでは政府目標の3割はいつまでも実現しない。女性法曹の増加に何が必要かは、法曹問題・司法対策問題の1つとして議論されるよう、ここでもさらなる主流化の必要性を感じる。「平等論から人権論へ」(横田)は、憲法研究者が、平等論を非常に平易に説きつつ、「人間らしく生きるための権利」の視点の重要性を説く。国内裁判では憲法14条がなかなか武器にはならない、そんな実態にヒントを与えてくれる。
 どの論文も熱く、通して読めば、おのずと、歴史、政治、経済、そして世界の中での今の日本の位置を知り、展望すべき将来を知ることができる。なお、コラムは非常に親しみやすいのでこれだけ先に、という方法もおすすめである。(F)
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