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小林カツ代『小林カツ代のお料理入門 ひと工夫編』文春新書 2016年

 前著の『小林カツ代のお料理入門』(文春新書)で、カツ代さんが稀有な料理家であったことを再確認した。同書のレビューでも書いたが、女性の料理家は得てして、近代核家族、その妻・母であることの「素晴らしさ」をガンガンにアピールする傾向にある。「物凄く著名でビジネスパーソンとして成功して超多忙のはずなのに無理があるだろう、そのポーズ!」というツッコミをも蹴散らすかのようにガンガンに。しかし、カツ代さんはそんな固定観念からは自由。家族と、誰かと食べるのもいい、ひとりでちゃちゃっと作って食べるのも楽しい、それもこんなに簡単においしく出来る!主婦に限らない、女に限らない。老若男女、誰もがちゃちゃっと作れる、作りたい、と思わせる。
 ひそかに「もうさすがにネタが尽きてくるのでは…」と一抹の心配がよぎったが、杞憂。「そうか!なるほど!」という新たな発見がいくつもある。簡単にちゃちゃっと、とはいってもアバウトにいい加減にということではない。押さえなければいけないポイントの数々を、勢いのある、簡にして要を得た文章で次々と伝授していただける。いつものことながら、カツ代さんの文章を読んでいるだけでも、まさに作っているさなかのように、料理のシーンが続々と鮮やかに浮かんでくる。
 たとえば「ハヤシライス」。「肉を入れて、一緒にザッザと炒めて、汁気が出ないうちに小麦粉を振りかける。二人分で大匙2杯くらいです。肉に赤みが残っててかまわない。肉に焦げ色をつけるとか思わない。小麦粉を入れると、ダマダマになって、どうしよ〜か、というくらいになります。気にしないで、火を止めて、水をジャーッと入れる。ここで1回火を止めることが大事」。これを読んでも、肉、小麦粉、水についてのミッションが分からない人はいないだろう。
 「焼きビーフン」のところにある、「炒めるときのコツ」。「フライパンの中でかき混ぜるのではなく、下から上へ持ち上げるようにする。蒸気の逃げ場を作ってやる。(略)炒め物すべてに言えることですが、ピッと背筋を伸ばして力強く炒める、これがコツ。背をかがめて炒めてると、水分は逃げ場がありません。大事なのは空気」。これを読んだ後でも、背をかがめて炒める人はいないだろう。
 既にカツ代さんの他の本でも読んだことがあるが、それでも飽きない、油の温度の測り方。「なに、温度計なんざ要りません。菜箸でわかる。油を熱して、そろそろどうかな、と思ったら、乾いていてきれいな菜箸1本、油に差し入れてみる。「あーぁ」とため息ひとつ、即、菜箸の周りからブクブクブクブクと泡が出てきたら、ちょうどいい。180度です。入れたとき、はー、っとため息をつくだけで、ブクブク言い出すまでに間があると、これはまだ低い。ため息をつく暇もなくブクブクしたら、高すぎです」。読むたびに笑ってしまうが、しかし、なんと実用的な知恵だろう。高すぎた油の温度を下げる方法も周到に伝授してくれる。
 そういえば、中学生のうちの子が料理好きになったのも、カツ代さんのおかげ。そもそもの始まりは、『小林カツ代のお料理入門』(文春新書)をちらっと読んで、「これなら作れそう」とオムライスを作り出したことからだ。今や、スマホを駆使し、料理の動画サイトに夢中、高級店のオムライスレシピにもチャレンジ、オムライス以外にも様々な著名なシェフたちのレシピにチャレンジして、めきめき上達している。それでも、ふと本書をテーブル上に置いておいたら、子どもは「あ、カツ代さんだ!」と早速手にしてパラパラめくり、「ナポリタンを作る!」と食材を買ってきた。今まで彼が参考にしてきたナポリタンレシピとは、ここがこう違う、「さすがだなあ、カツ代さん」と熱心に読みこんでいる。読書嫌いな子どもでも、手順がはっきりイメージできる。わくわく、つくりたい!という気持ちにさせてくれる。料理家として、さらに、文筆家として、カツ代さんってやっぱり素晴らしい。
 まだ、読みながらところどころで涙が出る。でも、カツ代さんが残してくれた膨大なレシピを、カツ代さんを愛するご長女や弟子の方々が、大切に構成し直し、世に出してくださることがとても嬉しい。(良)
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