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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
塩村あやか著『女性政治家のリアル』イースト新書 2016年

 「早く結婚したほうがいいんじゃないか?」
 「まずは自分が産んでから!」
 「産めないのか?」(沸き起こる笑い声)
 著者は、2014年6月18日、東京都議会本会議一般質問において、複数の男性議員からの野次を受けた都議である。
 妊娠出産育児に関する都の見解、取り組みを質問する途中で受けたこのセクハラ野次は、女性、特に女性政治家が向けられる蔑視や嘲笑を象徴する。おそらく塩村都議が黙っていたら、何の関心も払われなかったことだろう。野次議員たちは、塩村都議を、女性であり、4人という小さい会派(現在はひとり会派)で、議会の中で、力が弱いと、見下していたからこそ、無神経な野次を放ったのであろう。SNS時代のこのご時世、少数会派の女性にも全世界に発信することが出来ることを、彼らは認識していなかったに違いない。その日の夜、塩村都議と同僚議員はことの顛末をツイートした。翌日までに2万回を超えるリツイートがされ、東京都には1000件を超える抗議がたった一日で寄せられた。発言者の特定と処分を求めるオンライン署名(Change.org)は最終的に91,000筆を超えた。ウォールストリートジャーナルその他、海外では性差別主義者の発言として報じられた。ちなみに、私ももちろんオンライン署名に加わったし、怒りに満ちてネット上に寄稿したし、何とかならないかと都議会でロビーもした。
 本著を手にとる人の多くは、セクハラ野次問題に関心があることだろう。序章では、リプロダクティブ・ヘルス/ライツが国連の文書で個人の権利の問題であることが明記され、第三者に強制されて産むとも産むなとも言われるものではないことが国際スタンダードになって久しいのに、このスタンダードに野次議員たちは全く追いついていないこと、さらに小さい会派から野次をする弱いものイジメ、差別があることが、指摘される。
 しかし、本著はこの問題に終始するではない。ロスジェネ世代のひとりの女性が困難な中でも誠意をもって仕事をし、人々との出会いから学び、仰天するような苛酷な選挙運動をくぐり抜けて、都議になり、奔走するという、胸が熱くなるようなビルドゥングスロマンでもある。
 セクハラ野次問題で、ネット上、塩村都議を応援する声ばかりではなかった。男を「公の場で謝らせた」ことが批判されたり、過去の経歴や出来事を歪曲した情報も流されたりしたという。フリーランスの車のライターとモデルの仕事をしていて、顔と名前を売らなくてはと考えていた折、バラエティ番組「恋のから騒ぎ」に応募し、1年間の出演が決まる。面白くなければ外される。ライターの仕事を増やすため、絶対に番組に出続けたい。そのためにはどうしたらいいか。話を盛ったり大きく膨らませたりして、面白くすればいいのである。このときの「過激な言動」が、都議になってから問題にされもした。塩村都議は、「政治家になる前のこととはいえ、不快に感じたみなさまにあらためてお詫び申し上げたい」と書くが(56頁)、むしろ「全力でヒール役をやってきたんだなあ」と清々しい。バラエティ番組では話を盛っていることなど折り込み済みで視聴してきたはずなのに、ガタガタ生真面目に文句を言うのはどうかと思う。政治家としての資質に直結する金銭授受疑惑などがあった議員が大目にみられているというのに、不思議だ。
 「恋のから騒ぎ」を卒業し、放送作家としてラジオ番組を担当し、結局は政治を変えなければという思いを抱いていく。そして、維新の政治塾に加わり、みんなの党の公認申請をし、都議選に出る。今までの仕事を辞め、乏しい資金で政治家になる、この決断をすることも大きな勇気がいることだったろう。その上、駅で演説をしていると、毎日同じ人からぶつかられたとか(!)。頬を叩かれたり、胸ぐらを掴まれ揺さぶられたり、殴りかかられたりしたこともあるというのだから、恐ろしい。高い供託金など、制度的にも女性が政治家になるにあたっての壁がある。議員になっても、セクハラ野次等にあう。
 都議会という不思議。審議会のポストは多数会派に多く回る、一見平等に見えて不公平なシステム。参加するだけで何も発言しなくても、「費用弁償」という名の経費や交通費支給がある。報告書すら出さないでも「海外視察」を、多数会派に重点的に割り当てがいく。議員同士が平等ではなく、「強い者について忖度すればいい」という空気の蔓延。本著には書いていないが、小池百合子現都知事の人気にあやかろう、「都知事の下で働きたい」と、小池新党に我も我もとなびく(前)都議らが哀しい。真摯に勉強して、「下」でなく、都知事と「対峙して」都政の問題点を追及してほしい。そうでない都議などいらないと都民としては切に思う。
 そんな中で、塩村都議のような、勉強し誠実に行動している女性議員がいることが嬉しい。諸々の分析は冷静だ。桝添前知事の評価もしかり。とても残念なこともあった前知事であるが、「ときどき大会派を敵に回しても知事として正しい行動を取りました」(109頁)。北欧型のような理想を実現しようとした、新国立競技場の経費の不透明さも指摘し、非難していた。韓国人学校の都有地貸与は特に前知事がネトウヨから罵倒された問題であり、これを現知事は早々に撤回してしまった。塩村都議はこのような大炎上されるネタの経緯と真相をも果敢に、冷静な筆致で書き綴る。2012年に都はフランス人学校に都有地の貸与どころか売却までしたことや、生徒に多い駐在員の子どもは数年で帰国するのであり、韓国の学習要領に沿った学習をすることが、子どもたちのためであること、新宿区は他に保育所に充てられる区有地もあることなど。
 塩村都議が政治を志したきっかけになった動物愛護問題についても一章を割く。「動物愛護問題」というと柔らかい語感があるが、実際は動物殺処分問題である。この辺に疎い私は、窒息による残酷な殺処分の画像におののいた。他国では、殺処分の方法だけではなく、様々な規制がある。日本でも民主党政権下で動物愛護法ができ、八週齢規制も条文となった。ところが同条には附則がはいってしまった。また行政殺処分が少なくなった一方、「引き取り屋」が代わりに現れ、闇の中で犬猫を大量に殺すという現象が生じている。「大量生産」であれば「大量処分」は消えない。であれば、「大量生産」を止める必要がある、更なる法改正が必要ではないか…。おお。 この問題に突き動かされて塩村都議には、都議でなく、国会議員を目指してはいただけないだろうか。物愛護や、出産育児後も女性が働ける社会を目指すのであれば、都では収まらないのではないだろうか。後書きからすると「法改正等に関わりたいと思う」とあり、大いに期待したい(「この先はどの道を選択するかは分かりません」とも書いてあるのだが)。総翼賛体制になりかねない都議会においてこそ、なお必要な議員でもあるが。
 読むと、少数会派・ひとり会派でも、懸命に頑張れば、都議1期生でも、女性でも、手応えを感じるお仕事ができるのだ、と感動する。
 しかし、セクハラ野次問題については、発言者のたったひとりしか特定されず、その鈴木章浩自民党都議もいったん会派を離脱したものの、2015年7月には自民党会派に復帰した。離党勧告も除籍もない。他の発言者は名乗りを上げず、特定もされなかった。なんとぬるい解決。男たちに占められている都議会の限界を感じる。塩村都議は女性都議に「嫁姑問題」のようにやっかいな目にもあったようだが、それでもマイノリティの意見をも尊重されるようになるには、時限的にでも、クオータ制を設けることに賛成とする。確かに、必要に違いない。
 嫁姑問題のたとえで思い出したが、塩村都議がセクハラ野次を受けて涙したときに、「政治家なんだから毅然としてほしい。女性が涙に逃げるステレオタイプを強化しそうで嫌だ」と同情的ではない女性たちが周囲にいた。「私だって嫌な目に遭ってきたけど健気に耐えてきたのに。若い人は情けない」というかのように、嫁をいびる姑みたいな役回りはやめたい。歯を食いしばって耐え難きをタフに耐えることを、次世代にも承継させたくはない。塩村都議は精神的にタフなのだ。半端なく。中学でヤンキーの先輩7、8人に殴る蹴るのリンチを受け、「火花が散ったのを」見てもなおかつヤンキーの仲間にならなかったくらいに、「今は辛くても、長い目で見たら断った方がいい」ことに決然として向かい合うことができる人なのだ。涙がにじんだのも、不妊治療のつらさを訴えてくれた支援者の顔が浮かび、申し訳なさと情けなさがこみあげてきたからだ。女同士で厳しいことを言っていないで、連帯したい。
 なおひとつ残念な点。塩村都議は、「私自身「フェミニスト」と呼ばれると違和感があります。様々な価値観の人がいて、その数だけ選択肢がある中で、各々が幸せだと思うべき方法を選ぶべきだと考えていて、「女性はこうあるべき」というものがあるわけではない」(50頁)。うーむ、後者の考えをするのがフェミニストなのだと思うのだが…。フェミニストって「女性はこうあるべき」と考える人と思われているのか…。ここが、フェミニスト読者には唯一残念な点だった(^_^;)。(良)
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