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阿部彩 『子どもの貧困―日本の不公平を考える』岩波書店 2008年

 2006年のOECDの報告書で,日本の子どもの貧困率が上昇し,OECD諸国の平均に比べて高いこと,母子世帯の貧困率が高いことが指摘された。しかし,日本国内ではなお,子どもの貧困の実態は知られていない。有効な対策をたてるには,まず実態を把握することであるのに,実態調査さえされていないところが,まず問題である。著者は,貧困世帯に育つ子どもが,健康,学力,虐待,非行,疎外感等様々な側面で不利な立場にあること,さらに,子ども期の貧困の不利が大人になってからも持続する確率が高いこと,世代間連鎖もあることを,データをもって示す。
 衝撃的なのは,日本の社会保障政策によって,かえって子どもの貧困率が悪化しているという指摘だ。社会保障制度や税制度によって政府により所得の再分配がなされるが,OECDの調査によると,再分配前所得における貧困率よりも再分配後の貧困率のほうが高くなっているのは,唯一,日本だけである!他の国では,子どものいる貧困世帯の負担が過度にならないように,負担を少なくしたり,負担を超える給付がなされるよう,何らかの制度設計がなされているというのに,日本政府は子どものいる世帯の負担に無頓着であるのだ。
 一章が割かれている母子世帯の実態は,過酷である。日本の母子世帯の状況は,母親の就労率が非常に高いにもかかわらず,経済状況は厳しく,政府の援助も少なく,子どもの父親からの養育費の確保も安定していない,等の点で,国際的に特異である。母子世帯の政策は,量的にも質的にも一部にしか対応できておらず,かつ,就業支援は,有効に機能していない。児童扶養手当の有期化は,関係者団体の切実な反対運動の甲斐があり,とりあえず凍結されているが,予断を許さない状況にある。この政策は,母子世帯の生活苦が年数がたつにつれて軽減するという誤った思い込みや,さらには,故意に福祉給付に依存するために(「福祉依存」)所得が伸び悩んでいるという暗黙の理解のもとにある。しかし,そのどちらも誤りであることを,著者は指摘する。日本の母子世帯に対する福祉給付は低額で欧米のように福祉給付のみで就労せずに生活すること(「福祉依存」)は出来ず,すでに母親の就労率は高い。非正規化の進行など,全勤労女性の就労条件が悪化していることこそ,母子世帯の所得の低さの理由であり,福祉依存ゆえではない。日本の母子世帯の所得の低さは,母親が長時間仕事をしても賃金が低い仕事についていることに由来するのである。この点を直視しない政策は,有効に機能するはずがない。
 著者は,終章で,子どもの貧困撲滅を公約したイギリスの政策を参考に,日本政府が取るべき子どもの貧困対策を提案する。なお,現在の「少子化」対策は,子どものウェルビーング(幸福度),貧困への配慮が欠ける。給付付き税額控除(控除の基準額より少ない所得の場合は控除される金額を受け取る。)の導入等,子ども対策の抜本的見直しと取組が必要であるとの主張は,説得力がある。
 最近になって,「子どもの貧困」に関する本が現れはじめ,この問題にようやく注目が集まるようになった。関心の高まりを背景に,子どもの幸福度を主軸にした子ども政策に転換されることを,筆者も望んでやまない。
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