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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
有川浩「フリーター、家を買う。」2009年・幻冬舎

 昨年度、下半期のテレビドラマで一、二を争ったのが、いま人気の「嵐」の二宮君主演「フリーター、家を買う。」だったと思う。ドラマが面白くても原作はつまらない、逆に原作のほうがドラマよりずっと面白いこともしばしばある。しかし、本作はどちらも負けずに見ごたえ・よみごたえがあった。この小説をもとにドラマにどういう味付けをしたのだろうという観点から読んでもなかなか興味深い。
 そこそこの大学を出て、小さな会社にやっと就職したが、その会社の精神主義に我慢ができず3ヶ月でやめてハローワークで仕事を探すが中途入社でやりがいのある仕事など、この時代、ころがっているわけはない。フリーターとなって、コンビニのアルバイトなどを転々としているうちに、労働はきつくて汚いが比較的ペイがよく気持ちの良い仲間たちのいる道路工事にだんだん慣れ親しんでいく誠治が主役。この20代の草食系男子のたよりなさ、やさしさ、正義感が等身大に描かれていて、優れた現代若者論になっている。
 誠治の父親は商社勤務の堅物「経理の鬼」。母親は近所のいじめにあい強度の鬱病にかかっている。姉は誠治にくらべてめっぽう気が強くワンマンな父親にも立ち向かえるのだか、名家の医師と結婚し誠治たちと離れて住んでいる。この核家族の中で、母親の鬱病が家族関係をきしませると同時に収斂もさせていく。家をかえりみなかった意固地な父親も妻の服薬の見守りをするようになる。そしてなによりも変わっていくのは誠治だ。鬱病で不安におびえる母親の手にクリームを塗ってケアする、通院に付き添う、仕事人間の父親に母の病気を理解するように説得する… ついには底意地の悪い隣人に抗議するとともにこの町から脱出することを考える。「家を買おう!」が目標になる。
 幸せそうにみえる誠治一家を妬む隣人の心の闇、人の不幸せにつけこむ訪問販売など、現代的な問題が描かれているが、テーマは誠治を中心にした家族の再生の物語である。この母親のような従順な専業主婦がいまどきいるだろうか、という根本的な疑問はある。あるいは目標があればかならずかなうとか一生懸命努力していると必ず報いられるというような予定調和的な楽観論で貫かれていて、非現実的といえばそうなのだか、かろやかなタッチのせいか気持ちよく読める。読後感がさわやか。(巳)
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