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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
『日本の近代思想』(鹿野政直・岩波新書)

 日本の歴史家で、女性の視点を一番持っている・持ち続けているのは、鹿野政直この人である。「男性の研究者で」という言葉を付け加えれば、おそらく異論のある人はいないだろう。だから、彼が発表するものからは目が離せない。その最近作である。
 目次を見るや「第5章 女性の問い」から読み始める。
 必ずしも時系列になっていないで、時間の軸を縦横に走っているのが魅力的(こういうことはいわゆる「歴史家」はしない)。扱われている人間も「与謝野晶子」とか「平塚らいてう」といった歴史的評価が定まっている人はむしろ少なく、かといって新聞や雑誌の投稿に出てくる「無名」の人々に寄りかかっているわけでもない。伊藤雅子(国立公民館職員)、斎藤千代(雑誌「あごら」編集者)、井上輝子(和光大学教授)といった私たちの身近な人々(若い人にはもう歴史的存在かもしれないが)に光を当てていることが嬉しい。資料も難しい論文や数字の羅列だけでなく、歌、詩、俳句、小説などを用いているので、とても親しみやすい。
 この章は、「産む」性として/人形の家/母性保護論争/母親大会/主婦論争/主婦を見つめる/ウーマン・リブ/女性学の8項から成る。男性中心社会に公然と異議申立を行い、効率主義に体当たりして「女の論理」を掲げた「ウーマン・リブ」に1項目立てているところに彼の姿勢を見る。ただ、働く女の問題が後景に退いているのは残念である。男女平等を目指して、男女間の差別をなくすための戦いの一翼に確かに働く女性はいた(る)はずである。運動だけでなく思想のレベルでも働く女性たちは先兵だったと思う。たとえば、男性の性的暴力を女性の人権侵害という面で深めていったのは、さまざまなセクシュアル・ハラスメントの裁判を起こした女性たちだったと思うのだが。
 本章の結びの文章「一世紀にわたる問いをへて女性は、社会形成への参加を、むしろ奨励さえされる存在となった。『共同参画』というその形が、異議や異見を封じこめる新たな枠になりはしないかと恐れている」という著者の危惧をどう受け止めていくか。著者から女性に投げかけられた問いである。


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