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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
『うさぎの聞き耳』(青木奈緒・講談社)

 著者は明治の文豪幸田露伴の曾孫にあたる。露伴の娘幸田文、その娘青木玉の娘である。
第1作目のエッセイはドイツ留学の青春の日々をつづったものだったが、それに比べると文章の生硬さがなくなって読んで安らぎを感じる。
 出版社のHPの連載エッセイをまとめたものが中心となっている。ドイツでのエピソードや祖母や母との思い出、職場の話など範囲は広いが、どれもぬくもりのある文章である。
 「ごく普通に生活して、普通に理解できることが好き」と書いているように、穏やかな暮らしの中のある断面を切り取って才気走らない確実な筆でつむいでいくエッセイは、一篇の短編小説を読む趣がある。登場人物がみんな善良で、こういうエッセイはえてして退屈なのだが、父母、友人、編集者、職人、会社の同僚、財布を拾った人、大工さんなど、個性がはっきりわかるように描かれているせいか、心は和むが倦怠感を覚えない。
 祖母の毅然とした怖さはなく、母の生活に根づいたこまやさかもないけれど、のびのびとして視野がグローバルなのは育ちと時代の違いもあろうが、彼女自身が培った個性の反映だろう。きらきらしていないが、すごいテンポで動いている世の中でこのバランスの取れた安定感は貴重である。
 もうあまり本を読まなくなった(読めなくなった)八十歳半ばの母が、久しぶりに読み上げて「おもしろかった」と言った。
 いろいろな雑誌に散発的に発表されたものより、「働きざかり」「牛乳瓶のふれあう音」などHPに定期的に書き下ろしたものの方が、均質感・緊張感があっていいと思う。


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