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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
堤未果『貧困大国アメリカU』岩波書店 2010年

 日本の10年後はアメリカの現在だといわれていた時代があった。この高速のグローバル時代、アメリカのいまは至近の未来の日本だと思うと、すごくコワイ本である。
 オバマ大統領誕生以後のアメリカに迫った本書は、まず「公教育が借金地獄に変わる」――大学生がカード地獄に堕ちているという衝撃的な事実から始まる。アメリカでは住宅ローンと並んで学資ローンが巨大な市場を形成している。大学生の4分の3が学資ローンを抱えているというが、学資ローンは消費者保護法の適用をうけず、1回でも延滞すると利子が膨大になり、一切の免除が認められず、9か月延滞すると債務不履行とみなされ、回収会社から一生追いかけられ、名前がブラックリストにのり、クレジットカードも作れない状態に陥る。カード社会アメリカではこれは致命的なことである。
 しかし、それでも大学は良い就職口へのパスポートという幻想に駆られて、とくに中流下層の家庭からの大学入学者が増える。そして結局は彼らの多くは結局カード地獄にすべり落ちて、その先は‥‥オバマ大統領は若者に大学の学位をとらせる政策を推進しているが、それは結局、高学歴ワーキングプアの増大を加速させているだけだと著者は言う。
 最後の章は「刑務所という巨大な労働市場」。サプライムローン破綻によって、住宅と仕事を失った人々の多くがホームレスにならざるを得ない。このホームレスに対する厳罰化(その背景にはテロへの恐怖がある)や、たとえばニューヨーク州法のスリーストライクの原則(犯罪者が3度目の有罪判決を受けた場合、最後に犯した刑に関係なく終身刑になる!)が刑務所人口を拡大している。刑務所人口の8割は貧困層だがその彼らの刑務所における日常生活の必要品も全て(部屋代、医療費など)有料でさらに、たとえばニューヨーク州法の決まりでは逮捕された時点で、法定手数料と囚人基金の積立金が課されて、彼らは又借金を背負う。さらに刑務所における法律にも守られないおどろくべき「奴隷労働」。不平不満を言えないもっとも安価な労働力を利用する刑務所ビジネスが花盛りであるという。二重にも三重にも及ぶ搾取の中に生きる人々。
 教育の問題から始まり刑務所で終わるこの本の構成は、現代アメリカの若者がたどらざるをえない坂道を暗示している。ちなみに第2章は「崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う」、第3章が「医療改革vs医産複合体」である。
 暗澹たる思いで打ちのめされるが、まず現実を見据えなければならない。Uとともに前著Tもぜひおすすめしたい。
 インタビューをまじえ、数字を駆使して説得力に富み、そして若々しい息吹を感じさせる優れたルポである。新書版という紙面の制約のせいであるが、写真が小さいのが残念である。(巳)
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