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森崎和江・中島岳志『日本断層論』NHK出版 2011年

 近頃、若い男性が先輩の女性に話を聞くというのが流行しているのだろうか。本書は上野千鶴子・古市憲寿『上野先生 勝手に死なれちゃ困ります』(光文社・2011年)と同じように, 1977年生まれの中島が1927年生まれの森崎に胸を借りている。彼女のライフストーリーを追いながら森崎和江という女性の生き方・思想形成の過程を明らかにしようとしている。企画として面白い。
 森崎和江と言えば、1960年代70年代、九州福岡に輝く星であった。とくに地の底で働く炭坑婦の声を届けた人として、また知識人谷川雁のパートナーとしての過激な生き方は当時の若者を魅了した。
 日本の植民地であった朝鮮で生まれ育ったこと、弟の自死、大正行動隊の中の若い女性が同じ労働者からレイプされ殺害されたこと、この3つが森崎を突き動かしたバネとなっている。この3つから森崎は、日本との断層、自分のなかの断層、男と女の間の断層をみたのである。
 時のフィルターがかかってしまっているために、この対談からなかなか森崎の苦渋や怒りを読み取ることは難しい面があるが、にもかかわらず、60年代若者たちに人気のあった左翼知識人谷川と民衆との乖離を語る部分は非常に意思的なものを感じる。谷川がある時期、森崎にものを書くことを禁じ人に会うことも禁止したという。男の独占欲だろうか、家父長的支配欲だろうか。谷川は東京で若者たちを革命運動にと扇動したが、炭坑住宅に一度も住んだことがないという。それに対し、森崎は炭坑住宅の中に保育所をつくった。同じ組織内のレイプ殺人にショックで起き上がれなくなった森崎とそれよりも革命が大事と言った谷川。この二人の違いは男女の違いと言うよりも感性の違いかもしれないが、考えてしまう。
 戸籍上の夫と谷川の間を往復している時代もあったようだが、このあたりの突込みが十分でないのが残念である。
 本文に織り込まれている社会的背景の解説と森崎の年表が詳しく、対話を理解するための有効なツールとなっている。こんなもの無しでも理解できる時代にこの対談がなされていたらもっともっと迫力のあるものになっていたに違いない。(巳)
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