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佐々木幹郎著 『瓦礫の下から唄が聴こえる 山小屋便り』みすず書房 2012年

 詩人は浅間山麓の山小屋で週末を過ごす。血のつながった家族とは違うコミュニティが,自然の中で,草刈りなどを担当しあい,助け合う。3.11,そして福島第一原発事故直後のエッセイでは,東北に思いを馳せながら,まだ山小屋は危機とは別世界であった。しかし,すぐに嬬恋村も被災地であることを認識する。野菜を丹念に育ててきた知り合いの農家は,放射能に汚染されたら,「農家は全滅ですよ」「三代先まで,立ち直れないだろうな」と言う。そして,いざというときの覚悟を秘かに決めながら,緊張しながらもくもくと作付けする。
 農家だけではない。3.11後,この国に住む者たちは,緊張しつつ漂流している。詩の創作活動も,戦々恐々としたものになる。詩人は,詩を死者に試されているものとしてその原型に立ち戻って試されていると実感しながら,書き続ける。そして,津軽三味線の二代目高橋竹山と一緒に,東北の三陸海岸の町や村を旅しながら,被災した人たちの体験談を聴く。その言葉を編んで,新しい津軽三味線の「口説き節」を作りたいと願いながら。
 瓦礫の下から唄が聴こえる―このタイトルは比喩的表現だろうと思って読み進めていったが,現実のことだったと知り,血の気がひく。岩手県大船渡の主婦が詩人に語ったのだ。第一波の津波が襲った後,職場から自分の家に向かう途中,瓦礫の下から助けを呼ぶ声を無数に聴いた。助ける力がないので,ごめんなさいと泣きながら道を急いだ。あるところで,瓦礫の下から八戸小唄をうたう男の声が聴こえた。年配の男性の声だったという。その後第二,第三の津波が襲う。閉じ込められたその人は,どうして唄っていたのだろう。津波で多くの人が命を落とした。私たちはその大地の上に生きている。亡くなった多くの人たちを祈らなくては。そして,生まれてくる子どもたちのことも,忘れてはいけない。(良)
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