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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
榎本まみ著 『督促OL修行日記』文藝春秋 2012年

 「今からお前を殺しに行くからな―」「うるせぇんだよ馬鹿野郎!」
 そんな言葉を言われるのが日常茶飯事。著者は、クレジットカード会社に新卒採用され、コールセンターに配属された。就職氷河期にようやく就職が決まってほっとするばかりの著者は、就職先の仕事内容をさして知らなかった。ぴかぴかの社会人。その喜びに冷水を浴びせるかのごとく、いきなり、入金の確認が取れないお客様に電話をしては罵声を浴びる毎日が、はじまる。
 入社半年で10キロ減。ニキビがいっぱいでき、顔が痛いほど。督促が可能な時間(午前8時から午後9時、出社は午前7時)ずっと電話をかけ続けるため、洗濯の時間もない。ユニクロのパンツ、さらにはそれがあふれてきたので、紙パンツへ。彼からのメールへの返信もできなくなり、別れを告げられる(紙パンツだしなあと自嘲)。
 同僚たちは、同じく体調、そして心を損なって、退社していく。そこでダントツに成績の悪かった著者が成績が良くなっていく(上がいなくなるので)。それはともかく、著者は、大事な仲間たちが続々と病んで辞めていくのをみて、これではいけないと奮い立つ。セミナーに行ったり、本を読んだり、先輩たちの督促ぶりから学んだりしながら、気弱でヘタレな性格でも、入金を促せるメソッドを編み出していく。メソッドといっても、「申し訳ありません」ばかりではかえって単調で嫌味に聞こえる、「ありがとうございます」も心をこめてさしはさむ、といった、ちょっとしたヒントの蓄積のようだ。悪意をもって対応される督促部門ではなくても、人と対応する仕事に就いて日々悩んでいる多くの人への実践的なアドバイス集でもある。
 天晴だ。大学の同期の集まり、異業種交流会、そんなところで、「督促」といったとたんに、周囲にひかれてしまう。そんな仕事は嫌いだと面と向かって言われてしまうこともある。どうも、「コワい取り立て」イメージが抜けていない。コンプライアンス、法規制もある今や、理不尽な罵詈雑言を浴びつつも、言葉を慎重に選びながらひたすら入金を催促するのみなのだが。その上、街宣車が来たり(仮名ではなく本名を言わなければならないので、本名が連呼される)、会社前にガソリンがまかれたり、そんな職場なのだ。それでもなお、お客様の信用を守るための仕事と意義を感じて踏みとどまっているのは、素直に偉いと思う。
 忌み嫌われる仕事だろうと、この仕事が好きですと言い切るまでになった著者には頭が下がる。仕事は、生きていくために必要なお金を与えてくれるし、一緒に過ごす仲間も与えてくれる。そして、自分を強くする力も与えてくれるかけがえのないもの、というくだりには、目頭が熱くなる。ブログにも罵詈雑言がかかれても日頃の電話で免疫がついているから全然平チャラとブログでも発信を続けているという。著者は平気といっても、そんな書き込みされるなんて、可哀そうだ。こちらがブルーになる。
 でも、でも…何か根本的なところでどこか間違ってしまったのではないか、この社会の仕組みは、とも思う。こんな前向きなひとたちを、殺伐としたやりとりで疲弊させていくなんて(メソッドがあっても少しずつ疲弊していくだろう)。著者らが電話の向こうから「こんな仕事辞めた方がいいですよ」と言われることがあるという。それを言ったら、あたかも督促というと白い目で見るような人たちと同様で、かえって著者を傷つけるかもしれないと躊躇するのだが、こういう仕事で若い人たちを消耗させたくないな…とやっぱり思ってしまう。(良)
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