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奥田愛基・倉持麟太郎・福山哲郎『2015年安保 国会の内と外で 民主主義をやりなおす』岩波書店 2015年

 2015年安保。あのときの切迫感、高揚感、落胆、失望、怒りを、私たちは、文字通り力づくの「可決」後の連休、さらにはその他の政策、スキャンダルに目を奪われているうちに、忘れてしまったのだろうか。確かに、内閣支持率の推移をみると、「法案が成立すれば国民は忘れる」と言い切ったという「首相に近い参院議員のひとり」が正しいような気もする(朝日新聞デジタル2015年7月16日07時34分「安保法案「成立すれば国民は忘れる」強行採決の背景は」)。
 あのとき、国会内、路上で、何が起こっていたのか。本著は、SEALDsの奥田愛基さん、弁護士の倉持麟太郎さん、福山哲郎参議院議員の鼎談、倉持さんによる政府答弁から浮かび上がるトンデモ「我が国防衛」の解説、公聴会での奥田さんほかの公述、福山議員らによる委員会・本会議での討論、SEALDsのメンバーによる国会前スピーチが収められている。
 論理の破綻が明らかになっても平気でその破綻した答弁を繰り返す。国会で否定されたことをテレビ番組で口にする。政権が、国会審議のプロセスの積み上げを一切無視したということに、失笑している場合ではなく、深刻な民主主義の危機を感じるべきなのだ。ずっと言い続けたホルムズ海峡機雷掃海の話を最後には撤回。意味がわからないたとえ話(たとえられてもいない)。元とはいえ最高裁長官が立法府で議論している最中の法案に「違憲」だということ、それすら蹴散らされたこと等に、法の支配が揺らいでいることも露呈された。本著はコンパクトであるが、鼎談、倉持弁護士の論稿で、政権の答弁の変遷、破綻が具体的に指摘され、その目を覆わんばかりの酷さが非常に具体的にわかる。
 社会の根底が危うい。それなのに安保関連法を無理やり通した連休後「新三本の矢」が打ち出され、支持率も戻る。絶望するしかないのだろうか。いや、本著を読めば、悲壮感よりもむしろ元気が出てくる。いろいろなコミットができる、それが社会を動かし得ると実感できる。官僚のマンパワーの点からも議員の数からも、「数の力」という点では不利ながら、日夜勉強を重ねてぎりぎり追及していく野党議員たち。その議員たちを裏方として支える弁護士たち。議員たちに諦めず追及していくパワーを与えたのは、そんな裏方だけではなく、路上で抗議の声を上げた奥田さんら多くの人たちもだ。「だから自公に政権とらせたらこんな顛末は見えていただろうに」と評論家的に斜に構えそうになっていた私でも、こうはしていられないっ、マスとしてのパワーをみせなければと国会議事堂周辺に駆けつけたのは、人びとが動いたことに感銘を受けたからだ。マスの動きが、NHKが参議院審議ラストの三日間を生中継する等、官邸のご機嫌をうかがっているとしか思えないマスコミですら動かした。後半に収められた野党議員の胸を揺さぶられるような討論も学識者の公述も、必ず路上の人々のうねりに言及している。お互いが刺激し合って、反対の声をあげたのだ。一人一人が孤立せず、マスとなれば、確実にプレッシャーにもなりうると私たちは確実に学んだはずだ。
 政治は国会議員だけに任せておいてはいけない。院外の声が政治家の支えに、あるいはプレッシャーになる。政治家の動きに、人びとが感謝する、あるいは憤慨し抗議する。民主主義がまだ動いている、動かせる。タイトルそのままだが、まさに国会の内と外で、民主主義をやり直そう。昨年夏多くの人が持てたその実感は、今また潜在化したかもしれない。しかし、いざというときに盛り返すはずだ。本著を読んで、そう楽観し始めている。
 途中まで、若干不満だったのが、男たちばかりが登場することだったが、最後に収められた国会前スピーチは、奥田さんのほかは女2人。ジェンダーバランスにも配慮されていて、その点も評価できる。(良)
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