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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
蒔田直子編著『大学生活の迷い方 女子寮ドタバタ日記』岩波ジュニア新書 2014年

 「寮母さんが綴ったすっぴん大学生たち」「女子寮は今日もにぎやかー」という帯の文句を読んでも正直今一つそそられなかった。なまじ元すっぴん大学生だったため、ほかの人の経験まで読まなくてもね、と。しかし、人から―この本に文章も寄せている人から―、借りて読んでみたらまあ面白いのなんのっ、一気に読み切った。
 1979年、「さんざんと遠回りした学生時代」の末に(手短にまとめられている蒔田さんの青春時代がまた濃い。べ平連の人々が集う店でのアルバイト、産科病棟での産科助手バイト、大阪の生野区で在日一世の女性たちが文字を学ぶ「オモニ学校」でのボランティア…)、「我々は寮母闘争を貫徹するぞ!5寮連絡会議」と大見出しが躍るチラシが準備された女子寮松蔭寮に戸惑いながら「寮母」として迎え入れられる。「世界全体を変えるために闘う」という大それた青くて硬い言葉は今はもう書かれない、叫ばれない。しかし、上から管理されるのではなく、自由をいま求めたいという流れは穏やかに残っている。蒔田さんがその場所で30数年、10代から20代の混沌の時代を駆け抜ける寮生たちに伴走する立場になったのは、ちょっとした偶然から。「天職」って目指したわけではなくても、ふとしたきっかけで出会えることもあるのだろう。
 松蔭寮は1963年に建てられた古い鉄筋4階建て。外観は殺風景だが、中は同志社大学の女子学生たちによるまぶしくてにぎやかな世界。女子大生、まぶしい…ということで誤解しないように。出かけるときはおしゃれしていても、中では誰の目も気にしない、遠慮のない、かわいいがド迫力のすっぴん女子たちなのだ。なんと今どき2万円を切る部屋代を払う寮生たちは、何不自由のないお嬢さんというよりも、いろいろな事情から自活したい、バイトでお金をためて留学したい、もちろん遊びをしたい、とたくましい。
 でも、いつも元気でたくましいというわけにもいかない。鴨川の荒神橋の上で「今から死のうと思います」と電話をかけてきた発達障害のアッコちゃんに、蒔田さんは、必死でともかく寮に帰ってくるよう提案する。ドアを開く音がした、ああよかった。2人部屋がシンドイときもあるよね、と受付の奥の間で寝てもらう。或いは、癌の症状と抗癌治療の副作用をものともせず朗らかで力強いミサトに、蒔田さんは余命2年と診断された大切な友人を紹介する。2人は「ふふふ、抗癌剤やった後のあの立ち上がれない落ち込みがすごいよね〜」と昔からの仲良しのように初対面で語り合う。「いまここ」を生きることの大切さを実感し実践してきたミサトと友人とのおしゃべりの場面には、涙が止まらない。
 「汚部屋ランキング」の章は楽しい。しかし、床が抜ける、ドアを開いた時の一生忘れられないほどの汚臭、新入生が入ってくるために引っ越しを敢行しなければならないときの決死隊etc.。不思議に汚部屋の住民たちは、みな愛されるべき人物たちだったというが、それにして後始末も担わなければならない寮母のご苦労はいかに…。恨み節を書かずに面白おかしくまとめているのが偉い。
 寮生たちはいずれ大学を卒業し、仕事を見つける。社会人になったその後の手記もいくつか収められている。子育てに専念している人、修道女になった人、弁護士になった人、念願のフェアトレードの仕事につけたけれども過労で倒れ、地元に帰った後コミュニティスペースを作った人。寮でもその後も、道に迷うこともあっても、それはいつか自分のすることにつながっていく。長くもがいていた時期があった私も、弁護士になった元寮生の「弁護士になった今、大きく見えた回り道も、今の自分につながっていると実感する日々」というつぶやきに大きく頷く。
 蒔田さんは(元)寮生だけではなく、その家族ともつながっている。まーくんのお母さんはホスピスで亡くなった。その後まーくんは養護施設で暮らし、週末はお父さんに可愛がられ、夏休みは「寮母さん」と海に行ったり旅行に行ったりした。その後再婚したお父さんのもとに引き取られ…めでたしめでたし、とはいかなかった。たまに会うときは優しかったお父さんは、同居するようになったら叱るようになった。新しいお母さんともなじめず。中学では荒れ、祖父母のいる関東で一人暮らしをすることに。バイト先で店長と大喧嘩し飛び出して所持金30円。数年かけていなかった蒔田さんの電話番号を思い出し…。寮生や寮生の彼氏が「君は正しい!よくそのタイミングで蒔田さんに電話をかけた」とたたえる。本当に、良かった。支えてくれる人がいる、という信頼がまーくんを踏みとどまらせた。亡くなった寮生のお母さんも見守っているよ。
 留学生たちの経験や、バックパッカーやワーキングホリデーetc.での海外経験その他、全く知らない女性たちなのに(ひとりは知っている。なるほどなあ、あれほど魅力的なのはこんな経験があるからなのだ、とわかった)、とても豊かでいろいろあっても幸せになったりそれでまた壁にぶつかったりそれでも乗り越えたり…見守る蒔田さんと同様、一喜一憂、そして彼女たちの幸せを心底願い、その活躍や幸福な日々を嬉しく思う。
 かけがえのない青春(二度と繰り返したくはないけれど)とそれが地盤になったそれぞれの豊かな人生。といえば、陳腐だけれども、大切にしたいいろいろなことが詰まっている本だ。ジュニア新書の一冊。大学時代はこれから、楽しいことだけでなく辛いことにも直面する中高生にこそ読んでもらえたらいいなあ。(良)
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