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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
最相葉月『仕事の手帳』日本経済新聞出版社 2014年

 日本経済新聞社にしてタイトルは「仕事の手帳」。となれば、「ビジネスに役立つ手帳術!」的なもの?と思ったら大間違い。ノンフィクションを執筆する上での(あるいはかつての編集者時代の)命を削るような、しかしだからこそ天職ともいうべき仕事を見つけた充実感(そんなことは全くアツく語られるのではないが)もあるような、そんな仕事ぶりが言葉を丁寧に選びながら語られていく。入念な取材を重ねた末、言葉を研ぎ澄ましていく最相ならではの、仕事のスタイル。
 膨大な資料収集。星新一の別荘宅での資料の整理作業はまるで博物館の学芸員のような仕事ぶり(現に学芸員に感心されている)には気が遠くなる。当然ながら様々な過去やパーソナリティをもつ取材相手とのやりとり。別れ際に笑顔で挨拶してくれたのが、突然もう取材を受けたくないといわれることもあるとか、あるいは自分のほうから疑念が生じ撤退することもある。一冊の本が出来るまでに膨大な時間がかかり、その間の経済的ダメージも大きい。会社勤め中の貯金を切り崩しながら書き続けているライターもいるという。生きがいがあればこそ、だろう。
 編集者もライターも経験している最相は、編集者と執筆者の深い関係も描き出す。作家にとって、編集者からの手紙は執筆という孤独な作業を支える糧。最相が引用するマージョリー・K・ローリングズが名編集者パーキンズにあてた手紙の言葉は、ダダッ子のようではあるが、全く比べ物にならない類のモノを書いている私にも、ぐっとくる。「わたしのほかにも面倒をみなければならない作家がいるのはわかっていますが、どうか二週間に一度はお便りをください。あなたから手紙をもらわないと、どうしても元気が出ないときがあります。何もかもうまくいかないときでも、私が作品を書くか書かないかがあなたに大きな問題であり、その出来栄えに関心を持ってくださるとわかると、がんばろうという気になるからです」。とはいえ、最相も書いている通り、最近の編集者と作家はメールのやりとりに大忙し。2週間に1度程度がどちらにも良いかもしれない。
 子どもをインタビューする難しさ。子どもは案外「サービス」しようとする、など、面会交流等家事事件を担当する私としてもとても参考になる。
 最後に収められた数編の書評も素晴らしく、どの本も読みたくなる。底が抜けそうなほどの孤独に苛まれる夜、偶然見知らぬ誰かの感想を見つけて、心を立て直すこともあるという最相の書評は、どれもその作家たちが心の奥底から感謝するような、良いところだけを発見し、いたわり、称えるもの。最相自身、Webで書評を書いている人たちは、まさか自分の書評を作家自身が読んで一喜一憂するなど夢にも思わないだろうが、ときに深く傷つき、ときに励まされていると書き記す。ええっ。私は読書感想文を少しずつ書くのが地味に趣味。基本的に、良いと思った本だけ書いているが、ときに励ましているならうれしい。(良)
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