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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
水嶋かおりん著『風俗で働いたら人生変わったwww』コア新書 2015年

 風俗嬢という言葉で何を連想するだろうか。たとえば、と水嶋があげる「堕落した女」「能無しのバカ女」とは思わない。しかし、正直にいえば「哀れな女」とは思っている。一般的にも、風俗嬢=「ほかに行き場のない、哀れな女」というイメージはまだまだ強固なのではないか。ひそかに尊敬する西原理恵子だって、娘を「売春婦にはしたくない」とよく書いている。働きたいのに働けない女子の貧困のリアルとサバイバルの過程を見事に描いた大和彩『失職女子』(2014年)も、貧困の果て、「身体を売らないとならないか」と悩んでいたっけ(水嶋には「甘い!今は買い手市場だ!」と罵倒されること必至)。さらに、私の場合、弁護士という仕事柄(破産や刑事etc.)、出会う風俗嬢は、それはそれは生い立ちから不幸で、現在も貧困や病気に苦しむ、そんな女性たちだったという「実感」からも、心の中に埋め込んだ「風俗嬢のありがちな不幸物語」を再強化していたといえるかもしれない。考えてみれば、弁護士として出会うのは、風俗嬢に限らず、トラブルに遭ったかたたち。でも、風俗嬢以外の職業、たとえば公務員、医師、教師、etc.の人については、「その職業だから、こんな不幸に見合われて…」と職業とトラブルを結びつけないのに、風俗嬢ならではの「不幸物語」と受け止めるのは、偏見だ、と反省する。水嶋も、父親から虐待され、14歳での処女喪失も強姦によるものだったという過去からすると、いくらでも「風俗嬢の不幸物語」を再生産できそうでもある。しかし、水嶋はそんな語り口を期待する者たちを「凡百の風俗取材記でも読まれた方がいい」とはねつける。
 この薄い新書になんと充実した内容が盛り込まれていることか。現役の風俗嬢であり風俗嬢の底上げを図るべく講師もしている水嶋の、風俗嬢の仕事に関する偏見無理解を解きその意義を正しく理解してもらいたいという強い意気込みを感じる。風俗嬢の仕事の醍醐味、個人事業主であるという位置づけとその事業の内容、風俗をめぐる誤解と偏見、不合理な規制によって風俗嬢が保護されるよりもむしろ危険が高まっている現状の問題点、低価格化の弊害(風俗嬢だけでなく客にとっても弊害となる)、風俗嬢として働くにあたっての注意点(お店選びのポイント、ストーカー等リスク管理、セルフメンテナンス、性感染症対策etc.)、等々、非常に具体的、懇切丁寧に書かれてある。「風俗あるある」を披露するにとどまらない、ビジネスウーマンとしての気概、さらには社会批評も盛り込まれており、非常に面白く、示唆に富んでいる。風俗嬢はビジネスウーマンだと言う反面、「世界最古の職業」と持ち上げるなど、「それまた「売春婦は不幸」と同じくらい陳腐でないか?」と首を傾げるところもなくはないが、全体に書きぶりはキビキビ、媚のない、「男前」といった風情であり、読み易い。
 興味深いところはいくつもあるが、たとえば、自ら確定申告を行っている嬢は水嶋も知らず、水嶋自身以前は申告していなかったという件。納税の方法すら知らず、店からも指示がなく税務署からも催促がこなかったのだという。しかし、フリーランスの友人と話していて、税金の話題になったことを機に、確定申告を行っている。「払わないでやり過ごせるのにあえて払うのはバカだ」と言う方もいるかもしれないが、別に正義感や義務感から支払っているわけではない。納税は喜びだった、風俗嬢でも納税が出来ると知り、社会の正規メンバーに迎え入れられたような気がしたからだ、というくだりには、私までじーんとした。誇りにしているとはいえ、未だ不可視にされてしまいがちな仕事を、社会的に認められたというのは、大いなる喜びであったろう。
 しかしまあ、「おひざかっくん」された思いになるのは、「フェミニズム」批判の箇所。「フェミニズムとは女性の連帯であってほしい」という水嶋とフェミニストはそんなに遠いところにいないはず。水嶋は、フェミニズムにも様々な立場がありそれらを「十把一絡げに否定するつもりはない」とも書きながら、個人的な恨み(フェミニズムの勉強会のメーリングリストに登録希望を申し出たところ、「そういう職業の方はちょっと」と差別的対応をされたという。確かにひどい。恨んでもっとも)から発展して、フェミニズムが「現実にサポートを必要としている女性たちを排除するような、狭隘な思想」であってほしくない、とまとめてしまう。うーん。「フェミニストが狭隘」なんていうのも、「風俗嬢は不幸」と同様、よく知らない、知ろうとしない人からのレッテルではなかろうか。風俗嬢をもっと知れば意義もわかるだろうに、と意気込む水嶋が、フェミニストについてはありがちな単純化をしてしまうのは、悲しくなる。でも、まあ、ひどい差別を受けての恨みがあることは、理解できる。
 自分の中の偏見に気づくともに、風俗嬢の労働環境など、様々な問題も考えさせられる充実の一冊である。(良)
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