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三井マリ子・浅倉むつ子共編『バックラッシュの生贄―フェミニスト館長解雇事件』旬報社 2012年

 大阪府豊中市の男女共同参画推進センター「ステップ」の非常勤館長三井マリ子さんは、2000年9月、館長の公募で採用された。少なくとも「4年はがんばってください」と期待されて出発したにもかかわらず、2003年ごろから市側は三井さんを館長から下ろす画策を始め、2004年3月には雇い止めとなった。この事件の裏側には、2000年ごろから勢いを持ち始め、一時嵐のように荒れ狂った男女共同参画へのバックラッシュの運動があったことは明らかである。男女平等を強力に推進しようとする三井さんをバックラッシュ勢力である市議会議員や一部市民が攻撃するようになった。その勢力に屈した市は結局、「三井さんに常勤する意思がない」という口実で三井さんの首を切った。これに対して裁判で争ったが、地裁では敗訴、しかし2010年3月高裁は三井さんの主張を認めた。
 この間の記録をドキュメントタッチでまとめたのが、前半の「1人権文化部の首切りプロジェクト」(三井マリ子執筆)、間にこの裁判の弁護人をつとめた二人の弁護士の短い論文「2バックラッシュ裁判のたたかい」をはさんで、最後はこの事件の高裁裁判における意見書「3『ステップ』館長雇止め事件意見書」(浅倉むつ子)という構成になっている。
 当事者三井によるドキュメントは、バックラッシュ派の攻撃の執拗さ卑劣さを、そして市側の対応のまずさと三井さんへのだましうちのような仕打ちまた良き部下として信頼していた職員の裏切りを克明に描いて臨場感がある。だが、あまりに詳しすぎて、初見者は迷路に迷い込んだような気がしないでもない。
 これに対し、意見書は複雑にもつれた糸を解きほぐして視界を明瞭なものにした上で、本件の本質を三井マリ子さんへの人格権侵害ととらえて、「使用者の職場環境保持義務」「バックラッシュ勢力の横暴で執拗な言動」「市および財団の態度の変化」「『組織変更』の名の下に行われた人格権侵害」の4つに切り分け、明快な法律論を展開していて、非常にわかりやすい。最後に「確認しておくべきこと」として、一連のバックラッシュ勢力からの攻撃への対応として、三井さんには何の職席上、いかなる落ち度もない、むしろ男女共同参画拠点施設の館長として、十二分の職責を果たしていると断定している。そして市側がどのような人格侵害をしたかを5点に集約しているが、もっとも驚くのは館長選任の公平さを装うためにすでに新館長が決定しているのに、形式的に三井さんにも受験させ、結果として不合格にしていることである。このような茶番によってどれだけ無駄な時間と費用がついやされて、三井さんは無駄な心労を二重三重に味合わされたのである。ということが客観的に述べられ、三井さんのドキュメント部分と読み合わせるとその情景とそこに隠された意味とがビビッドに立ち上がってくる。
 ひところよりバックラッシュの声を聞かなくなった。しかしこれはいつまた再燃するかもしれない。いつでも爪を研いで待っているという怖さを感じずにはいられない。どうしたらいいのか。部外に支援の動きはあったが、三井さんが組織内で孤立した(当時の理事はほとんどが留任)たたかいを戦わざるを得なかったのはなぜなのか。考えなければならない問題は多々ある。
 それにしても、書名の「生贄」ってどれだけの人がよめるだろうか。せめてルビを振るとよかったのでは? (巳)
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