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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
阿古真理『昭和の洋食平成のカフェ飯 家庭料理の80年』筑摩書房 2013年

 著者の前作『うちのご飯の60年 祖母・母・娘の食卓』は,著者,母,祖母の三代の女性が作り食べてきたものを軸に,食生活の急激な変化,その背景にある政治経済,女性の生き方など,社会の変化,価値観の変化をもたどった労作であった。本書では,メディアを切り口に,昭和から平成にかけての家庭料理,さらには暮らし方の変化をたどる。対象とされるのは,雑誌,本,漫画,テレビ番組,映画などに登場する家庭料理,食卓だ。洋食が一気に広がった昭和半ば,本格的な外国料理に主婦たちも取り組んだ時代,エスニックの要素も取り入れたカフェ飯の平成。そして,繰り返し発見される和食。
 家庭料理や食卓の変化は,台所仕事を担ってきた女性たちの変化を浮き彫りにする。
 「お茶漬けの味」「大学の若大将」「主婦の友」「きょうの料理」「寺内貫太郎一家」「だいこんの花」「金曜日の妻たちへV」「ノンノ」「オレンジページ」「美味しんぼ」「クッキングパパ」「料理の鉄人」「すてきな奥さん」「ごちそうさまが,ききたくて」「Mart」「イマジン」「かもめ食堂」「花のズボラ飯」「太一×ケンタロウ 男子ごはん」「きのう何食べた?」「マルモのおきて」「クウネル」「天然生活」「おべんとうの時間」,タニタ,スローフード,マクロビオティック,人気レシピブロガー…etc。あったあったと懐かしく思う一方,これだけ多数のメディアに分け入っていても,「栗原はるみを取り上げるなら,シンプルオシャレな有元葉子さんにもひとこと言及してほしい。あ,行正り香は『仕事も育児も,時にはパーティも』といった代表格として言及してほしい」「粗食のすすめの幕内秀夫も取り上げては」「ズボラ主婦を演じた奥薗壽子も欠かせない」などと次から次へと思い出す。本当に料理メディアは爆発的で膨大。全部網羅せよというのは,無理な話だ。その一部(と言っても膨大)から,社会の変化を巧みに浮き彫りにしていく。
 命を支える基本である食がおろそかになっているのではないか。偏食,孤食などの子どもたちの食卓を取り上げた本著は,前著よりも時代の変化に危機感を示し悲観的なトーンが強い。どんどん孤独になる家族の食卓。子どもも,大人も独りで食べ,偏食する。ともに暮らしていてもお互いに無関心。愛情を与えあった実感もなく育っていく子どもたちのこれからはどうなるのか。家族がそろって囲むだんらんは,今やメディアの中のフィクションにすぎないのか。悲観するあまり「女性批判」へ傾きそうな寸でのところで,著者は踏みとどまる。
 カフェ飯スタイルの人気レシピブロガーの料理は,なじみがなかった昔の味も新しい味も楽しく作ろうという気にさせる。長らく研究熱心な主婦を対象にした「きょうの料理」が初心者を前提とする「きょうの料理ビギナーズ」を開始し,基礎から料理の楽しさを伝えようとしている。ケンタロウは楽しいトークとともに毎日食べ続けられそうな料理を楽しくクリエイティブに作ることを提案してきた。店では出せない触感,味,素材の組み合合わせを楽しみ,健康と好みを考えて整える食卓を楽しむゲイカップルを描く漫画「きのう何食べた?」は,子どもの存在が必ずしも夫婦を続ける理由にならなくなった異性カップルにも共通する絆の深めかたを提示する。都会の消費者が産地を訪ねるアグリツーリズム,農家レストランも流行っている。「おべんとうの時間」(私も2冊読了,書評を書いた)は,妻がそれぞれの好みや事情が反映されたお弁当を軸に,大切な過去や家族への思いやりをインタビューで聴きだし,夫がお弁当の写真を撮る。レシピ本のような見栄えのするお弁当ではなく,茶色っぽいお弁当の数々。朝4時には家を出る酪農家を回って牛乳を集める仕事の男性は,共働きの妻につくってもらうのをやめて,自分で大きなおにぎり一個をラップに包んでいる。どれもこれも,とても美味しそう。家族を大切にし,地味ながら栄養バランスを気遣った食生活を送っているひとたちがまだまだいる,仕事と生活を大切にしている人たちがことを知って,ほっとする。
 そう,「主婦」「母親」がどうこうすべきなのに…ということではない。作り手は男でも女でもいい。血がつながった家族というものがうさん臭くて重すぎるようになったとしても,ご飯がおいしかったとか,誰かと笑いあったとか,そういう一瞬の中に幸せはある。「スローライフ」などの流行と定着は,戦後ずっと「目標」に向かって生きてきた私たちが,何かを達成することが,人生ではないことに気付いたことを示す。家電製品や立派な家で豊かさを完成させることはできず,それらをあの世に持っていくこともできない。私たちは,子どもがいるいないにかかわらず,次の世代にこの世界を引き継いでいく。
 「問題ばかりを見ていたら,絶望したり将来を悲観したくもなる」が,「一人ひとりが,食べること,つくることを大切にし,自分や家族の心と体をいたわることで,変えていけることはたくさんある」。しめくくりは,凡庸といえば凡庸だが,すとんと胸に響く。あたたかな気持ちになる。家庭料理のように。(良)
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