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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
グードルン・パウゼヴァング著 高田ゆみ子訳『そこに僕らは居合わせた 語り伝える、ナチス・ドイツ下の記憶』みすず書房 2012年

 ナチス支配の時代が終わったときに17歳だった著者による、その時代に10歳から17歳までのドイツ人少年少女をめぐる20の短編。
 1926年に設立されたヒトラー青年団は、法律によって唯一の青少年団体と定められ、10歳から18歳の男女は全員加入が義務付けられた。学校ではユダヤ人生徒は追放され教師も解雇された。カリキュラムには人種学と優生学が加わった。ナチスは国家社会主義の精神のもとに子どもたちを教育した。学校だけではなく、国家社会主義を信奉した両親や近所の大人たちからも、子どもたちは、ユダヤ人らを差別し排斥し、自分の命を祖国に捧げることが名誉であると「教育」された。
 本書はフィクションではあるが、著者の実体験や実際に見聞きしたエピソードが色濃く反映されており、読み進めるのが辛い。しかし、おとぎ話のような語り口であり、子どもに読んでほしいという著者の願いが伝わる。ころころと態度を変え躊躇なく差別するようになる大人に比べて、子どもの方がその変化に戸惑っている観があるが、それでも子どもが一方的に「被害者」であったとはしない。容易に悪意や憎悪も抱いてしまう恐ろしさも記述する。
 特に最初の「スープはまだ温かかった」には震撼とする。親しくしていた食料品雑貨店のユダヤ人一家が連行されていく。語り手(14歳)の母は「連れていかれるわ!すぐ行かなきゃ!」と子どもたちを連れてユダヤ人一家の家へ急ぐ。ほかの野次馬と一緒に、お爺さんがパニックになる様子を笑う。連行された後、人々はてんで各部屋になだれこみ、両手いっぱいに物を抱えていく。ちょうど昼食をとろうとして、ナプキンやお皿などがセッティングされたテーブル。母がいう。「みんな、テーブルについて!」スープを口に運び、うっとりと「まだ温かいわ」とつぶやく。
 ドイツだけではない。日本でも教育を通して、軍国少年、「小国民」が育てられた。そして、従前の教育を「自虐史観」などに「偏向」したものと切り捨て、子どもが「日本の伝統文化に誇りを持てる」ようにし、あわせて近隣諸国条項を見直すことを公約に掲げた政党を2012年の衆議院選挙で圧勝させたこの国において、このような教育を通した子どもたちへの教化は、残念ながら、昔々の話とは思えない。
 自分でものを考えようとしなかった時代への猛省。人に判断を委ねてはいけない。自分の頭で考えなさい。人を傷つけ、自分の命を大切にしない、そんなものから身を守るすべは、自分で判断すること。著者のメッセージは、残念ながら、今の日本の私たちにも、切実なものだ。(良)
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