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角田由紀子『性と法律 変わったこと、変えたいこと』岩波新書 2013年

 昨年(2013年)12月発売と同時に読了。深く強く感動した。だからこそ書評を書くのは期間をあけた。著者は私が尊敬して止まない大先輩の弁護士。感激がほとばしるままに書くと、かえって「先輩に気兼ねした賞賛感想文」と誤解されてしまうかもしれない。そう思ってクールダウンするまで待った。
 性をめぐる法律問題は様々だ。結婚・離婚・養育費・面会交流・親権にかかわる民法、DV、賃金差別、保育所、育児休業、性暴力、セクシュアルハラスメント、売買春…。私は、大学生だったン十年前に性暴力等の被害者の代理人として既に名を馳せていた著者に憧れて、弁護士を志した。意外なことに、著者は何か資格を取ろうと司法試験を志し弁護士になったもので、はじめから女性たちのために粉骨砕身で働くぞ!と意気込んでいたわけではなかった。弁護士になってから、女性が直面する問題に出会うことが重なり、その上「現行法ではそれは無理」と法律家として回答しても納得しない女性たちがいたからこそ、法律そのものの問題にも目が開かれたという。当事者である女性たちだけでも、著者だけでも、この社会は変わらなかった。諦めない女性たちと、その女性たちの問題意識をしかと受け止めて知恵をしぼった著者の出会いにより、この社会は1ミリ1ミリではあるが変わっていった。最初のセクシュアルハラスメント裁判を始めるときの「これが勝訴すれば、社会の景色が少し変わるかもしれないというわくわく感と、負けたら大変だという責任感の混じった気持ちを鮮明に思い出す」というくだりその他、パワフルな著者もやはりどきどきと不安もあったのだ、それでも切り拓いてくださったのだと、身震いがするほど感動するとともに、著者が切り拓いていったときよりその後の今のほうがずいぶん道は険しくない、「ああ〜世の中変わらない」と不平不満をたれていないで、まだまだ残る法律の問題、さらには個々の事件での女性たちの救済に、微力ながら貢献しなくては!後に続くぞ!と決意をあらたにする。
 新書という薄さに、性に関する法律問題や個別の事件がぎゅっと凝縮されてあり、大変お得感がある。
 憲法24条という画期的な条文がありながら、女性だけ再婚禁止期間を課していたり、婚姻適齢に男女で2歳差を設けていたりする民法は、女性差別撤廃条約上も憲法上も問題がある。離婚等で「協議」によるとされるのは、一見民主的なようでいて、力関係の差がある夫婦間においては、大きな問題をはらんでいるのではないか(私も常々思っていたところである!)。DV事案は現在地裁で保護命令をとり、家裁で離婚や面会交流の調停等を行うが、一度に解決できる仕組みが必要ではないか。DVは苛酷だが、そこから逃れるにも、男女の賃金格差等を背景に、離婚後の母子の自立は困難であり、恐怖のなかに忍従するか、劣悪な経済状況に耐えることになる。女性は女性であるがゆえに、働くことから疎外され(「結婚退職」など)、あるいは、低い屈辱的な評価しか与えられなかった。性暴力の刑事責任を追及するには、告訴を要するが、被害者の「落ち度」を詮索する社会の中で、簡単なことではない。告訴を諦めた人は、加害者を無罪放免していいとまでは思ってはいないはずなのに。告訴を必要とするのはなぜか、筋の通った説明はなされていないまま、告訴しないという選択をさせられることにより、性暴力被害の実態が明るみに出ることはない。セクシュアルハラスメントという言葉は周知されたものの、研修の眼目は「不祥事防止」とされがちで、人権問題であるという認識が定着したとは言いがたい。売買春については台湾が一部合法化する一方、韓国は厳罰化するといった具合に、女性の権利を守ると言ってもアプローチは真逆になりうる、困難さがある。しかし、日本の売春防止法が買春の需要等を問題にするよりも女性たちを刑事処分の対象とし女性を問題視していること、風営法が売春防止法が禁じたはずの行為を事実上解禁していることなど、問題は尽きない。
 感心するのは、ベテランの著者が、性暴力では牧野雅子さん、セクシュアルハラスメントでは牟田和恵さん、売買春では荻上チキさんといった具合に、若手の、そして必ずしも法学の分野ではない研究者たちの業績に謙虚に学ぼうとしていることだ。光栄なことに、DVの章には、参考文献に拙著も取り上げて下さっている!大変励みになる。若手、後輩たちからも学び、考察を深め、個々の事件の依頼者のために還元していく著者の姿勢を見習いたい。
 昨年(2013年)12月に民法が改正され、婚外子相続分差別規定が廃止されたが、同月刊行された本著には、改正されたという箇所と未だ改正されていないという箇所があり、その点は民法改正運動に取り組む私としては、唯一残念なところであるが、タイミング的に厳しかったのだろう。
 数ヶ月置いてからの感想でも、つい熱くなってしまう。性と法律の過去と現在を学んだ上で依頼者に対する熱い共感を喚起させてくれる、良書である。(良)
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