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溝口紀子著『日本の柔道 フランスのJUDO』高文研 2015年

 2013年女子柔道の国際試合強化選手15人はJOCに全日本女子ナショナルチーム監督ほか指導陣から暴力行為やパワーハラスメントを受けていたと訴えた。選手らはJOCに訴える前に全日本柔道連盟に訴えたが、全柔連が監督の続投を決めたことで、自浄能力がないと悟らざるを得なかった。そのためにJOCに訴えたのである。その後も助成金不正受給、セクハラ・わいせつ事件の発覚が相次いだ。著者は、この問題は、権威的な男性社会である柔道のムラ社会に根ざした女性蔑視、差別の一端であるとみる。と、そのあたりを読みたいところだが、その点は前著『性と柔 女子柔史から問う』にまとめたということで、本著では柔道のジェンダーバイアスよりも、日本の柔道界が不合理な勝利偏重主義のもと個人を尊重してこなかったこと、背景にある組織の機能不全etc.を明らかにする。著者は日本を飛び出しフランス柔道ナショナルコーチを務めたが、フランスの教育的な指導のありかたを踏まえると、より一層日本の柔道ムラの異様さがわかる。勝利偏重主義とは裏腹にこれでは日本の柔道がフランス他各国に凌駕されても仕方がない。
 それにしても、怪我をさせることも重大視せずむしろ「根性を鍛える」と当然視されていたことが、多数の柔道事故を生じさせてきたことは痛ましくてならない。著者が体験し見聞きした体罰、暴力は凄まじい。このような人の心身を大切にしないありかたにより重大事故が続いてもなかなか改善がされなかった経過を読みながら、被害者を前にしても組織改革、体質改善は難しいものなのかと愕然とする。死亡事故が起きても先生とその先生に従う子どもたち、親全員でもみ消したことすらあるという。強い上下関係は、人を盲目にするということか。
 暴力をふるう指導者の誘いを著者が断るや、凄まじいいやがらせを受ける。実力のある人の成長を、妙な人間関係のこだわりから、妨げようとする柔道界。くだらないが厳しいいじめ嫌がらせがある場で、人の成長は難しいだろう。上下関係に従順に従う人しかその組織で生き抜けないとしたら、その組織は膿んでいく。
 告発に至った女子柔道の国際試合強化選手15人は、まだ理不尽なことはおかしいと声を上げる気力が残っていた。著者や山口香ら、この社会で苦労してきた女性たちの支えがあったからこそできたことであろう。女性たちの訴えへの反応等からすると、まだまだ改革への道は険しいようだ。しかし、全柔連は、そこが閉鎖的なムラ社会であると批判を続けてきた著者を理事に迎えた。このことは、全柔連においても、改革をしなければならないという意識が生じていることのあらわれではあろう。さらに、ようやくといったところだが、全柔連は、柔道事故の被害者の会とも交流を始め、柔道事故防止に乗り出してもいる。
 フランスでの指導経験も踏まえて、著者は、これからの日本の柔道には、コーチと強化委員長に、外国人と女性をいれること、などを提案する。フランスとの細々とした違いが興味深い(日本の選手は自分が出場する大会を選べない。最後に収められたインタビューでフランスのデコス選手(ロンドンオリンピック金メダリスト)はそのことに「チャンピオンになってそんなに出たら研究されるし、消耗して、五輪本番に向けてピークにもっていけません」と驚く、など)。「お家芸」「伝統」などとして男ムラ社会であぐらをかいているのではなく、個人を尊重し、多様性を認め、伸ばしていくべきである。このメッセージは、旧来のあり方に盲目的に従い、個々人を損なっている日本の様々な組織にも向けられているように思う。(良)
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