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田中寿美子さんの足跡をたどる会・井上輝子監修『田中寿美子の足跡―20世紀を駆け抜けたフェミニスト』I女性会議 2015年

 「@@〈母の名前〉はタナカスミコに投票するんだろう?」とよく父は母をからかうように言っていた。保守的な父も理性的で知的な母(自分の母をこういうのもナンだが)に一目置いていたのだろう。タナカスミコに投票する「賢い」妻を父はどうも内心誇らしく思っていたような気がする。
 労働省の婦人少年局の課長を務め、1965年、社会党から参議院全国区に立候補当選、83年まで参議院議員として売春防止法、沖縄返還運動、公害問題に取り組み、男女平等法制定などに力を注ぎ、またご多聞に漏れず男中心の社会党における男女平等を推進した。1980年、社会党初の女性副委員長になった(その時も男性のやっかみはひどく結局副委員長の数を増やしたという)。そのような「政治家」としての田中寿美子を私はまず知ったのだが、後年、人類学の研究者としての側面や「日本婦人問題懇話会」を立ち上げて若い女性たちを親しく導く教育者としての側面を知った。
 今の60代半ば以上の女性にとって、田中寿美子は仰ぎ見るスターであった。ところがそれ以下の世代にとっては、はるか遠い存在だ。あの土井たか子でさえ「土井さんってだれ?」というくらい時は過ぎて、いまや社民党と名を変えた社会党はその存在さえ風前の灯だ。憲法改正が現実的な課題になってきている今日こそ頑張ってほしいのに。この本の刊行にはそういう危機意識も底流にあったと思われる。
 また、1950年代から80年代の日本の女性政策決定過程や平和運動、フェミニズム運動史上、欠かせない人間であるにもかかわらず、田中寿美子にほとんど光を当てられてこなかったこと残念に思う人々によって本書は編まれている。しかし一方的な思い入れで書かれているわけでなく、彼女の人となりを紹介するのにも家族はもちろん、当時の社会党で共に活動した人々、労働省時代の友人・後輩、友人などにひろく取材して田中寿美子の全容を立体的に紹介していて、おもしろい。労働省(現在の厚労省)婦人局には山川菊栄を筆頭にキラ星のように有能な女性が集まり活気に満ちていたことや、夫稔男との結婚を後年、「思想結婚」といったそうだが、いずれも時代をよく表している。
 このように語り継いでくれる後世代の人々を育てたことは幸せだったと思う。
 「生涯」「政治活動」「文筆活動」「友人らによるエッセイ」の4つの章から成るが、巻末の資料が秀逸で、年譜はもちろん著作目録、雑誌論文目録、国会活動一覧、新聞記事一覧など縦横無尽。編者たちの田中寿美子への並々ならぬ思いが伝わってくる。

 なお、本書のエッセンスはGALの井上輝子「20世紀を駆け抜けたフェミニスト田中寿美子さん」を参照。(巳)
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