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『皇后の肖像』(若桑みどり・筑摩書房)

 出産後はじめての皇太子夫妻の記者会見をテレビで見た。雅子妃の声が最初からヘんだなあと思っていたが、「本当に生まれてきてくれてありがとうという気持ちで一杯になりました」というあたりで、完全な涙声になり、隣席の皇太子に背中を叩いて励まされていた(「母親になって涙もろくなって」と後で釈明していた)。 
 子産みへのプレッシャーが一人の女性にどんなにストレスを与えているかを感じた。と、同時に家族モデルとしての皇室に巷の好感が寄せられたにちがいないとも思った。「なんと人間らしい」という価値が付加されただろう、と。 
 今はテレビ・新聞などのマスコミが天皇ファミリーの団らん風景などを報道することによって、一般国民にすり込みが行われている。
 テレビなどがなかった時代も、天皇家は国民に対してより強力なメッセージを発していた。それが肖像画や写真(戦前は御真影といわれた)である。本書では、明治天皇・皇后の写真――とくに皇后の写真を詳細に分析しながら、日本の近代化の歩み、女性の役割の進化(「良妻賢母」の育成)を追っている。
 「明治の国家設計者らは、女性を無視しては日本の近代化、国民化は遂げられないことを認識し、女性の地位を相対的に高め、彼女らに国家内部での位置と役割を与え、なおかつ、彼女らのエネルギーを主婦役割に集中させ、最終的には家族という国家権力の下部組織のなかに回収することに成功した。天皇の理想的な妻、慈愛あふれる国母としての昭憲皇太后(明治皇后のこと)の存在は、この政策遂行に不可欠であった。大量に生産された皇后の表彰は、この新しい国家がその建設の途上において、女性を統治することにいかに腐心し、女性をもって女性を統治するためにいかに表彰のもつ力を利用したかを示している。」 
 500頁に近い大著の結論部分である。
 明治時代の皇室の知らざる部分が紹介されていて、びっくりなことがたくさんある。女官には天皇がつけた源氏名とあだ名があって、それが「くくり猿」とか「青目玉」とか「にゃん」とか。天皇は皇后の洋服姿に反対したとか。一夫一婦制度を国民に対して推進しながら万世一系のために側室制度を持っていた天皇制とのひどい矛盾とか。
 天皇史、女性史を天皇ファミリーの肖像画や写真分析によって明らかにしていく、実におもしろい研究書。
 次回は、大正以降現代までを同じ手法で、一般書に仕上げたら売れると思うのだが。

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