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美馬のゆり『理系女子的生き方のススメ』岩波ジュニア新書<知の航海シリーズ> 2012年

 「理系女子(リケジョ)的生き方」とは何ぞや?企画当初は「女性か科学者という生き方」というタイトルだったという。しかししっくりしない。「女性でよくそこまで頑張ってきましたね」「家事はどうしているのですか?子育ては?」「ご主人が理解ある人でよかったですね」えっ!????質問の意味がよくわからない。自分がやりたいことをやるために、まわりの人たちと調整しながら、できることをやってきただけなのに。それは自分のためだけでなく、関わる人たちみんながハッピーになることを見つけて実行してきただけだから。でも、それは、どうも「普通」ではなかった?今はその「普通」でない生き方、やり方が求められているのかも。「自分のやりたいことを見つけて、まわりを巻き込みながら、楽しく生きる生き方、それが理系女子的生き方。それに必要なコツを伝授しようというのが、本著の狙いだ。
 「理系」に惹かれて手に取った読者には、食生活や家事を取り上げる第1章、トイレの表示から働く女性のMカーブ、世界の15歳の意識の違いまで、社会の観察へ誘う第2章、未来を想像しながら仕事を考えるよう促す第3章、その他、「理系」にとどまらない多岐にわたる話題にあっけにとられるかもしれない。看板に偽りなし、理系女子的「生き方」に乗り出すには、専門分野の研究に集中していられない。専門の仕事に突き進むにあたっても、私たちは社会のただなかにいるのだから、その基盤の生活にも興味関心を持っていたい。
 たとえば、第2章では、仕事を続けるメリットとして、自己実現のほか(さらりと3歳児神話を神話として退けつつ)、リスクマネジメントもあげる。自分の人生を親、あるいは夫に頼って生きること。これは大きなリスク。「女だから」とまわりに言わせない、自分でも言わない。自分自身が技術や知識を身に付け、社会に出て行くことが、リスクマネジメントになるし、社会にも生産力の大きな力になる。そうそう、西原理恵子も「この世で一番大切な「カネ」の話』で、同じことを書いていたっけ。「旦那の稼ぎをあてにするだけの将来」は,考え直した方がいいよ。せっかくつかまえた白馬の王子様も,明日にはゲロゲロ文句ばっか言うただのヒキガエルかも。人の気持ちとカネをあてにするってのは,「自分なりの次の一手」を打ち続けることを自ら手放してしまうってことだと。とても基本的で言わずもがなの視点かもしれないが、またもや「女性を活用」との看板を掲げながら、3歳児までは母親(父親でなく)が「抱っこし放題」にしようと思惑の政策が語られるこのご時世、フェミニズム研究者だけでなく、様々な論者が語ってくれるのは、心強い。
 後半は、著者が日本科学未来館副館長として「サイエンス・アゴラ」という交流イベントなどを企画したり、函館の大学の立ち上げに関わるとともに「はこだて国際科学際」開催に関わるなど、「学び」の成果を活かし、人々と協働で学び続けていくネットワークをつくりあげていく、エキサイティングな経験が綴られる。とても魅力的で、ガッツが出てくる。コミュニケーションの中で協働で科学を発展させていこう。福島第一原発事故後、科学の進展に必要な姿勢はこの理系女子的ありかただろうと示唆を受ける。
 読んでいるうちに著者の元気がうつってくるような気分。
 でも…。とても前向きな本著を読みながらも、先日読んだ荻上チキさんの『彼女たちの売春』(扶桑社)のことがどうしても頭から離れない。美馬さんは「しぶしぶ」と言いながら中学から女子校(すなわち私立だろう)。ご本人の能力や努力もあったが、それを伸ばしていける家庭環境があった。他方、貧困や虐待、DVのある家庭で、自尊心を持てず、サバイバルするのがやっとで、自分の能力を高め活かし社会に還元するなんてところまで到底いかない「彼女たち」もいる。ひとが皆いきいきと楽しく「理系女子的生き方」をできるように、社会の組み立ても考えなくては。それもまた、「理系女子」的に果敢に取り組まねばいけない。本著とズレた感想で申し訳ないが、続けて読んだこの2冊の本の明暗、あまりの落差にどうしても書き留めずにいられなかった。(良)
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