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神原元著『ヘイトスピーチに抗する人びと』新日本出版社 2014年

 ヘイトデモに遭遇し、憤り、カウンター運動に参加した弁護士からの貴重なレポートと提言、いや力強いアピールともいうべき書。ヘイトデモとカウンター運動の現場のレポート(第1章)、ヘイトスピーチが蔓延する背景(第2章)、ヘイトスピーチを法規制することについての法的論点(第3章)、ヘイトスピーチ規制をめぐる国内外の情勢(第4章)、市民がカウンターとして連帯していくことの重要性(第5章)、人びとの良心への期待(第6章)で構成される(なお、章のタイトルは異なる)。
 著者は、弁護士であり、法規制の議論も紹介してはいるが、自分でも認める通り、法律の効果より人びとの力こそ期待している。だからこそ、圧巻は、差別主義者とそれを許さないという人々の現場を描出する第1章、さらにはカウンターの様々な取り組みを紹介する第5章である。
 第1章で紹介される、著者が遭遇したヘイトデモの様相には活字を読むだけでも凍り付く。「朝鮮人、首つれ、毒のめ、飛び降りろ」「除鮮 害虫駆除」「こ〜ろせ、殺せ、朝鮮人!」「よい韓国人も悪い韓国人もみんな殺せ」。書き写すのも苦痛だ。本著に引用されている罵声は、これにとどまらない。もっともっとある。そして、その場での罵声を全部書き写せたわけでもないだろう。そんな現場にいたとしたら…。耐えられない。著者の胸にも、「どす黒い、ガスのようなものが詰め込まれた気がした」という。私は恐らく悲しみで打ちひしがれる。しかし、著者の胸にこみ上げたそれは、怒りだという。目の前で繰り広げられた不条理な人権侵害に対する怒り。そしてレイシストたちをひたすら守って歩く警官隊への怒りだと。私は偶然ヘイトデモに遭遇した時、同じくどす黒いものがぐっと押し寄せる気持ちがしたが、その場で凍り付いた。心臓がバクバクした。著者は違う。カウンター活動に参加し、「在特会は、恥を知れ〜」と怒鳴った。彼のとてつもないパワーを感じるところだ。凄まじい差別の現場に凍り付くのではなく、アクションを起こすところに。さらに、弁護士としてあれこれ法的主張を組み立てるにとどまらず、差別が現に展開されているその現場で、カウンター市民の一人としてコミットもしたというところにも。
 カウンター行動がひとりひとりの思いからどんどん多様化していくのも、感動的だ。「お散歩」と称する嫌がらせに的をしぼったしばき隊、「差別は止めろ」というと書いたプラカードを持って沿道に立つプラカ隊、「憎悪の連鎖は何も生まない」等と書いた横断幕を掲げたダンマク隊、「仲良くしようぜ」等と書いた赤い型の風船を通行人に配った人、ヘイトデモ前でドラッグクイーンの姿で踊った人…。憎悪にまみれた街が市民の力であたたかさ、色彩を取り戻していくような描写に、涙が止まらなくなる。しばき隊、プラカ隊、差別反対女組の中心的人物へのインタビュー等も収められている第5章とともに、特に権力も何もない市民でもひとりひとりの力を合わせれば、この社会が差別と憎悪の渦に引き込まれていくことを食い止められるのではないか…、そんな希望を抱かせてくれる。
 第2章では、ヘイトスピーチについて「言論には言論で」というリベラルな論客がいるが、実際にヘイトスピーチを知らないのではないか、と苛立ちを示した後(私もその苛立ちを共有している!)、続々と具体例を挙げる。そして、ヘイトスピーチがジェノサイドに至る事象も、ルワンダ、さらには関東大震災であらわになったことも。漫画やインターネットが「嫌韓」を蔓延させたこと、政治家による差別発言も放任されていること、易々と差別発言をした政治家にも寛容である情勢、福祉政策上の国籍差別、高校無償化から排除する等の朝鮮学校への政策的な差別。それらが相互作用で差別の扇動が強まっているという著者の懸念が的を得ているとしたら、恐ろしいことだ。レイシストたちが周辺的な存在なのではなく、むしろ政治の主流を忠実に反映しているとしたら…。
 第3章では、ヘイトスピーチの規制に関連する国際条約、各国の法規制を概観した後、日本も各国同様、自国の歴史に沿った取り組みが必要である、法規制は憲法に違反しないと説く。具体的には、まず罰則のない差別禁止法をつくり、その上で差別の実態を調査研究し、厳格に限定した刑事規制をすべきだと述べる。
 第4章で、もっとも、法規制には濫用のおそれがあり、慎重を期すべきではあるとした上で、マイノリティ保護や反原発運動等他の運動への悪影響を排除する等の原則が共有されるべきだ、さらには規制するだけではなく、根源にある差別構造を解消すると取組み(たとえば、朝鮮学校を高校無償化から排除する政策の撤回等)の必要性を指摘する。
 著者は、司法研修所同期の友人である。アツいやつ、くらいに思っていたのが(すみません…)、今では、確かにアツくてたまらないが、そのアツさに打たれ尊敬してやまない人だ。憎悪や偏見、悪意と差別で苦しむ人がこの社会にいるなんて、理不尽だ、そんなことはストップさせたい、その彼の願いに突き動かされる。一人でも多くの人に、本著を読んでもらい、彼の願いを共有してほしいと願う。(良)
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