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国谷裕子『キャスターという仕事』岩波新書 2017年

 毎晩NHKの7時のニュース天気予報を聞いてから「クローズアップ現代」を見るのが習慣になっていた。そういう人はたくさんいたように思う。
 23年、3000回以上続いたこの番組がNHKテレビの大幅な番組編成の変化の中で、2017年春幕を下ろした。その陰にはさまざまな圧力があったといわれている。
 この間ずっとキャスターを務めてきた国谷裕子さんも本書の中に控えめではあるが、その内情を本書に書き止めている。
 「ここ2、3年、自分が理解していたニュースや報道番組での公平公正のあり方に対して今までとは異なる風が吹いてきていることを感じた。その風を受けてNHK内の空気にも何かが起きてきたように思う。」として、たとえば、国民の関心の高かったそしてこれからの日本に大きな影響を与える特定秘密保護法案や安全保障関連法案についてとりあげることがほとんどできなかったと、述べている。
 「クロ現」と愛称で呼ばれていたこの番組はわずか30分の番組だがそこには多くの人がかかわっている。また国際的な取材やインタビューなど経済的にも相当なコストがかかっている、「国営」放送NHKならではの番組である。この番組の全体試写は「前日試写」と「当日試写」の2回ある。番組制作担当者、編集者、番組デスク、キャスターなど関係者が一堂に会して白熱の議論を交わす、読んでいるだけで緊張してくる場面だ。この場に事前に資料を読みこみ、十分なメモを用意して国谷さんは臨む。そして自分の疑問や注文をストレートに投げかける。どのような指摘・発言をしたかの例が挙げられているが、そこには効率をもとめるあまりに切り捨ててきたものへの危惧や反省の念が色濃く出ている。
 2度の試写を経て番組の最終ランナーとなるキャスター。バトンを受けた国谷さんがもう一つ大切にしていたのが番組の冒頭の1分半から2分半の「前説」。ここは自分の言葉で書かないと熱が伝わらない。前説のポイントになるところでは自分の正面の顔をうつすように注文した、視聴者にフェイス・ツウ・フェイスで伝えたかったからだ。そういえば番組開始の時のたじろがない国谷さんの目は怖いくらいだった。
 「全体試写での議論を経て、担当者のこだわりや番組で伝えたいメッセージを共有し、放送に向けてそれぞれが同じ方向を目指して走り、番組の完成度が次第に高まっていく、その気配がたまらなく好きだったという」国谷さんの23年の思いがこもっていて読み手も熱い思いに駆られる。
 その国谷さんが危惧しているのは、日本にかぎらないが組織の管理が強化されて社会全体に「不寛容な空気」が浸透していること、具体的にも「クロ現」がスタートした時より明らかにテレビ報道に対して不寛容な空気がじわじわと浸透しているということ。彼女が身をもって体験した「言論の自由」への干渉、妨害を示唆している言葉は重い。第4の権力といわれている「マスコミ」は今危機に瀕している。
 コンパクトな本だが読みやすく面白い。「能力と準備の深さ」が試され、さらけ出されるという「第7章 インタビューの仕事」が個人的には一番面白かった。「17秒の沈黙/準備し田資料を捨てるとき/しつこく聞く/それでも聞くべきことは聞く/額に浮かんだ汗」―小見出しを拾っただけでも緊迫感が伝わるではないか。
 それにしても国際情勢が大きく動き、ついに憲法改正が政治日程に上がってきた日本にとって大事な番組を失った。残念でならない。(巳)
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