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吉田千亜『ルポ 母子避難―消されゆく原発事故被害者』岩波書店 2016年

 2011年3月、東日本大震災、津波、原発事故が起きたとき、何よりも気になったのは幼い子どもの放射能被災である。無色無臭の放射能は子どもに大きな被害を与えるが、それがすぐに発症しないこともとても恐ろしい。子どもを抱えた母親はまず「自分がこの子を守らなければとの思いにつき動かされたのは「母性愛」とか「母性主義」とか批判されようともその子の一生にとって取り返しのつかないことであるので、必死になるのは当然だと思う。私が育児中だったらどうしただろう。核家族で頼る親戚もいないし西に知人友人がほとんどいない私はどうしただろうか。「去るも地獄残るも地獄」という言葉が頭をよぎる。
 あれから5年たった今でもその思いは脳裏から離れない。そんな時に出会った本書。
 「自主避難者」とは、政府からの避難指示がなかったが、とくに放射線の影響を受けやすい子どもをつれて避難した人をいい、必ずしも福島県からの被害者だけではない。避難指示がなかったため、東京電力からの損害賠償を受けられず、経済的な理由から夫は現地にとどまって働き、母子で避難したケースが多い。著者は事故直後から食品や空中に含まれる放射能測定をしながら被害者と向き合ってきた。2012年、埼玉県で避難者の交流会を開き、避難指示区域内外の人々とかかわりを深めるなかで原発事故にまつわる「不条理」に気が付く。本書ではとくに一度も政府の「避難指示」を受けずに。子どもを守りたい一心で避難している母子に焦点を当てている。読んでいて辛い。
 でも読まなければならない。「強制避難者」と「自主避難者」への差別的取り扱い。それは政府だけではなく受け入れる人びと、また私たち自身にもある。避難を決めるまでの葛藤。崩壊に瀕する家族関係(実際に崩壊した家族も多い)。避難後の二重生活による経済的圧迫。どれもこれも原発事故さえなかったら襲われなくて済んだ人的災害、不幸だ。
 2016年、政府も福島県も「復興の加速化」の掛け声のもと、避難者への支援の切り捨てが始っているという。自主避難者にわずかに保証されていた住宅無償提供も2017年春には打ち切られる。
 ようやく避難先で得たささやかな安定も失われる危機にあって、大きな不安を抱えながらも帰還を決める人、避難生活の継続を考える人、決心が付かない人、さまざまだ。その悩みに寄り添いながら国や県の施策、東京電力の対応、姿勢の問題点を明らかにしている。
 著者はこの本を書いた動機は、自主避難者への住宅支援打ち切りに対して反対の一石を投じたいという思いと「消されゆく」母子避難者・自主避難者の5年間を決して今消さないということだと書いている。
 北海道に避難して、避難者のサポートをしている女性の「不安をかかえて泣きながら待つよりも、手助けし合っていこう、って言いたいんです。人生を楽しみたいですよね。原発事故に自分の人生を明け渡すのも、やっぱり悔しいから」という言葉で本書は終わっている。
 小さな新書にこめられた著者の思い、その背後にある多くの女性たちの苦しみをどうしたら受け止められるのだろうか。身近な問題なのにどうしていいかわからない焦燥感。読後感は暗く重く希望の光を感じることができないがどうしても読んでいただきたい1冊。(巳)
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