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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
赤石千衣子著『ひとり親家庭』岩波新書 2014年

 最新データをもとにコンパクトに社会問題を分析してくれる新書は手頃でお得感があるが、胸をうたれることは少ない。しかし、本書は、読んでいるうちに涙を止まらなくなるときが何度もあった。かつてひとり親の当事者であり、当事者が集まるしんぐるまざあず・ふぉーらむでたくさんの当事者の相談を受けてきた著者の経験、思いがにじみ出ているからだろう。涙にも、涙の後の笑顔にも何度も立ち会い、困難がありながらも問題に向き合い解決していく人の力に心を揺り動かされてきたという著者の経験のエッセンスを読みながら、読者も追体験しているかのように揺り動かされる。
 読みながら、私自身、子どもが幼いころいっぱいいっぱいだったときのこと(ひとり親でなくふたり親でもいっぱいいっぱいになっていた)を何度も思い出した。熱を出したと保育園から連絡が続くなどしたときは(それも仕事が忙しくテンションが高いときに続くのである)、緊張感が強く、悩み辛かった。幸い、夫も私もある程度時間に自由がきく仕事であり、協力しあって調整できたし、時には助けてくれる親族もいた。明日の生活はどうなるという金銭的な心配も差し迫ってはいなかった。もし、あのとき、配偶者の協力がなかったら(慌てて付け加えると、「だから両親揃っていなくてはね」ということでは決してない。葛藤が強い父母が「子どものために」と愛情のない結婚を続けることが、子どもに苛酷なことになることは多々ある。本書でも指摘があるように、かなりのハードルがあっても離婚を決意した背景に、夫からの暴力や虐待があることも多い)。社会的に孤立していたら。仕事が不安定。ぎりぎりの生活。自分、或いは子どもが病気。そんなことが重なって頑張れと言われても…。
 また思い出す。児童相談所で知ったひとり親家庭のこと。失職、貧困、孤立、病気…これでもかこれでもかと重なる困難。その中で子どもがいたずらをすると過剰に反応してしまう。或いは、子どもの世話がおろそかになる。「虐待するのも無理はない」と言うつもりはもちろんない(そしてこれまた慌てて付け加えると、ひとり親家庭では虐待が生じるという偏見を生じさせたくもない)。しかし、そこまで親が追い詰められる前に支援のしかたがあったのではないか、事後的に親子を分離するだけで公的仕事は「一丁上がり」といっていいのか、と何か忸怩たる思いだったことを。
 著者はいう。「ひとり親の体力・気力を一本のゴムにたとえれば、いつもゴムがひっぱられている状態だ。ゴムが伸びきったらどうなるか」。いっぱいいっぱいだったときの私自身、まさにゴムがひっぱられた状態だったので、切実によくわかる…。「これ以上、がんばれない…」という帯の言葉に泣く。既に頑張るだけ頑張っているのだ。
 ひとり親家庭を取りまく事態は悪化している。著者は、子どもが保育園児だった20数年前、月10万円の収入で家賃5万円弱を払い、月35000円の児童扶養手当を頼りにした生活だったが、その後正規職員となり、給料も上がり、何とかやってこられたという。著者だけでなく、ほかのシングルマザーたちも、数年経つと仕事が安定し給料が上がる人も多かった。ところが、現在のひとり親は事態が良くなっていくことが望めない。パートから正規になることも、賃金が上がることも望めず、最低賃金すれすれの時給で働き続ける。或いは、雇止めにすらあう。今までも苛酷だったひとり親の状態がさらに悪化していることが、様々なデータ、さらには、著者が出会ったひとり親たちの相談から、具体的に明らかにされていき、読みながら押し潰される。
 苛酷な状態でも、ダブルワークをして、子どものための教育費を捻出しようとするひとり親たちはいるが、それでも十分な教育を捻出するのは困難だ。「自助」のかけ声のもと、(既に十分「自助」に努力している)ひとり親家庭などの子どもたちへの公的な支出が抑えられる中、子どもがひとり立ちできるまでに育てる力は弱まっていく。「自助」といわれても自立のためのスタートラインにたてる条件すら調わなければ、貧困にあえぎ、最後のセーフティネットである生活保護を利用せざるを得ないのではないだろうか(実際、今公的給付を与えればいずれ納税してくれる大人を育成するのに、公的給付を渋ればかえって将来生活保護に依存せざるを得ないことになり、財政面からも何が得策かを考えてほしいとの試みもある)。「自助」を声高に叫ぶ前に、明日のこの社会を支える大人になるはずの子どもの育つ環境を考えてしかるべきであろう。
 離婚には至っていないが紛争中であり別居中である場合の困難や、DVにさらされた子どもたちへのケアの必要、非婚シングルマザーへの差別(公的にも堂々と差別がある)、排除(非婚シングルマザーが一人で出産したときに、著者が病院へ行ってまず「おめでとう」と伝えるというくだりにも涙した。大切なひとことだ)、男女の賃金格差(女性の貧困、さらには子どもの貧困につながる)、拡充するどころか抑制される児童扶養手当、検証なきまま予算が投じられている「就労支援」施策の貧弱な実態など、網羅的な分析はどこをとっても読み応えがあり、また個々のエピソードに涙を流す。最後の第6章には、「求められる支援」が具体的に提案されている。ひとり親が集う場を提供してきた著者は、相談になかなかつながらないひとり親のことも気になっている。相談につながる人はある意味で力のある人たちだ、というのは、法律相談を受ける弁護士である私にもわかる。助けてといえる力のある人で良かった、でも、その力がない人たちはどうしているのか…と。様々な支援を模索しなければならない。
 ひとり親家庭の状態は一層過酷になっているが、本書は、糾弾するのでもなく悲嘆するばかりでもなく、なお何か方策はないのかと模索し、手がかりを提示してくれる。アクションを起こしたいとひとりひとりに思い起こさせる、力強く、そしてどこまでも優しい本である。(良)
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