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北尾トロ(監修・村木一郎)『裁判長! おもいっきり悩んでもいいか―裁判員制度想定問題集』文芸春秋 2009年

 この本を読んでいて2回も電車を乗り越しそうになった。択一の答えがなかなり紛らわしくて、解答を考えているうちに思わず夢中になっていたのだ。
 法律家の書く本は、正確を期すあまりどうしてもゆるみがなくて、難しくなる。だが、本書はその大部分を、北尾トロさんという法律にはシロウトのライターが執筆しており、一般の人が陥りがちな誤解や誤読の可能性を予見して叙述しているので、丁寧でわかりやすく、読み手が混乱しないですむ。そして設問の最後に法律の専門家である弁護士の村木一郎さんが簡にして要を得た解説をしている。この「簡潔」という点が大事で、読者に嫌気を起こさせない。
 全体を裁判員制度想定問題集の形式で設問と解答で組み立てているが、まず裁判員制度そのものへの問いから始まって、実際のケースを下敷きにした重大事件を死刑求刑事件まで含めて10章に分けている。それぞれにつき、裁判員となったと仮定して北尾さんが、散々悩みながら「一人評議」で結論を出していくのだが、その思考のプロセスが参考になる。
 事例に沿いながら、自分だったらどういう判決を下すかと考えていくうちに、自分に潜むある種の傾向に気づく。たとえば、私の場合、どうしても、子どもの虐待、女性への暴力――とくにレイプのケースには目が厳しくなる(予測はしていたのだが、あまりにもそれが明白で驚いた)。情状酌量を考えるどころかどうしてこのような酷い犯罪に対してこんな軽い量刑の規定しかないのかと怒りが湧く始末である。自分の関心や育った環境、現在の生活が投影されるのだろう。
 このような個人的感情を排除して,法的に公正な結論を導くことは本当に難しいことだと思う。北尾さんのいうような人生のなかで知らず知らずに身につけてきた「人間観察力」に、自信をもてないだけに、「一般市民」が参加することによって、裁判が良い方に変わるという確信をどうもいまだにもつことができない。だが、「裁判」というハードルが高い「暗闇」の窓を開くことは少なくともできるかもしれないという感触を本書によって得ることができた。
 今年の5月からスタートした裁判員になるかもしれない私たちが読んでおくと、それなりの心の準備ができると思う。
 本書に不満があるとすれば(これも私の好みに他ならないが)「裁判長! おもいっきり悩んでもいいか」という書名である。本のタイトルは覚えやすくて本屋さんで注文するとき言いやすく聞き取りやすいことが大事だと思うのだが、その点これは感心できない(もっともネットで買う分にはいいかもしれないが)。(巳)
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