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西倉実季『顔にあざのある女性たち――「問題経験の語り」の社会学』生活書院 2009年

 病気や怪我のために顔に大きな傷やあざをもつ人々(著者は顔に著しい特徴があるという表現をしている)は100万人くらいいるという。このような人々が身体障害者とはまた違う苦しみや困難を持っている(著者は「問題経験」という表現を使う)ことは容易に想像される。にもかかわらず、それがほとんど言語化されておらずまた彼らからクレームが述べられないのはなぜか。さらに女性の場合は男性とは異なる問題経験をしているのではないか。そんな問題意識から本書は出発している。
 ユニークフェイスというセルフ・ヘルプグループにアプローチして十数名の女性にインタビューし、3人の女性のライフヒストリーを紹介しながら分析するという手法をとる。
* 隠して生きるのはつらい(Aさん)
* 内面も人より劣っているのではないか(Bさん)
* 普通じゃないっていう意識は死ぬまで変わらない(Cさん)
 このインタビューは7年をかけてそれぞれ数回行われている。こんなに長い年月を要しているのは、インタビュアである著者がインタビューを分析しているうちに、自分の仮説の誤りや仮説にひっぱっていこうとする強引なインタビューを自己批判して、軌道修整しながら聞き取りを度重ねているせいである。特に外見の美醜で判断されがちな女性にはよりいっそうのプレッシャーがあるのではという前提は非常に納得できるのだが、当事者に会う中で必ずしもジェンダーの問題に限定できないと気がついた彼女はインタビューをやり直している。そういう研究者としての真摯さがよく感じられる。研究者のこのような告白を読むのはほとんどはじめてで心を打たれてしまった。
 インタビュー部分で「あのー」「やっぱり」「もうね」「なんかね」といった当事者の「あいまい語」が頻繁に入っており、また「うんうん」「はいはい」といったインタビュアの相槌が忠実にテープから起こされているので、まだるっこさを感じ読みにくい。だが、カウンセリングの記録と同様、研究者としてはこれをきれいに整理してはいけないと思ったのだろう。
 いわゆる身体障害と違って、「あざ」は整形手術やカムフラージュメイクである程度、隠せるという特徴がある。しかし、それは一方で「隠している」という罪悪感、後ろめたさを感じさせるということ、また化粧に多くの時間をとられることの不自由さがあるという。とてもよくわかるが言われないと気がつかないことではないだろうか。このような意味で本書には「気づき」がたくさんある。
 実際、あざのある人に会ったときどうすればいいのか。1つの解答が示されている。それは「好意ある無関心」。つまり過度の関心(侮蔑、凝視)を示さず、反対に無視もしない。多分こういうことか。電車で向かい側の人の顔を私たちはなんとなく見る。だがすぐに視線をそらす。このような自然の態度をとってほしいというのが、幼いときから他者の視線に傷つき以来ずっと他者との対面交流に困難を感じている当事者のささやかな願いである。
 本書はとくに人と対面することを業とする人々――教師、医師、弁護士、看護師などなど――にぜひ読んでいただきたいと思う。(巳)
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