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100年前の女の子(船曳由美・2010年・講談社)

 かなり厚い本だが、一気に読める。私が一番感動したのは「あとがき」である。
 著者は編集者で、出版関連の女性の会に属していた。その会報にエッセイをよせていたところ、その会で出会う他社の女性にいつもおもしろいとほめられた。それが励みになって書き続けたものが、女性編集者の目にとまって、出版されたという裏話が紹介されていたのだ。最近はかなり変わったが、出版界も男性優位社会である。そのなかで、会社の枠を超えて女性同士のネットワークで新しい企画を生み出すというのは、そうたやすいことではない。
 この本の著者の母親(寺埼テイ)の聞き取りから、小説仕立てというかドキュメントというかになっているが、この母親が100歳で存命であるという。
 テイは産みの母を知らない。母親があまりにできすぎる姑に恐れをなして、実家で出産後、婚家に戻らなかったからだ。父親はすぐに再婚したが、テイは養子に出された。貧しい家の厳しい養母にテイはなつくことなく、彼女にとって、幸せなことに、養子縁組を解除されて、祖母と父,継母の住む家に帰され、テイは祖母の愛情を一身に受けて育つ。
 栃木の足利近くの高松村で地主をしている寺崎家は村の中では裕福であり知的な階層だったが、まだ電気もなく、女の子は学問など無用と言われていた時代である。しかし、社会の変化はこの地にも及ぶ。実の母のいないテイを慈しんだ祖母の意向もあり、テイは東京に出て高等教育を受けている。
 テイという少女の目を通して身の回りの出来事が描かれ、結果として優れた日本の近代女性史となっている。子どもの低い視点であるから、戦争や社会全般のことなどがあまり描かれていない。生き生き描かれているのは、村を訪れる小間物屋や富山の薬売り、野道でのバッタとりとか受験の日の朝寝坊そして折に触れての祖母の言葉である。祖母は難しい言葉を使っていないが、人間の生き方、貧しい人や障害者への対し方を孫にしっかり教えている。古きよき時代の共同体の精神を見る思いである。ここでも祖母から孫へという女から女へバトンが渡されている。
 この100年で日本がどんなに大きく変わったか。行間から、今や失ってしまった土や水、草の匂いがたちのぼってくる。(巳)
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