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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
藻谷浩介 『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』角川書店2010年6月

 昨年大変話題になった本。ベストセラーに良書なしと勝手に決めつけている私は,本著もしばらく読もうとは思わなかった。しかし,「3.11」後しばし茫然としている折,さらりと読めそうな文庫を手にする機会も多くなり,ふと読み始めた次第である。
 これがなかなか面白い。賛否両論あるようだが,生産年齢人口減少という「人口の波」こそ経済を動かしているという主張は,GDPといった用語が踊る新聞の経済面から経済がわかるものだと思っていた私にとっては,目から鱗である。なお,著者(「日本政策投資銀行地域企画部地域振興グループ参事役,政府関係の公職多数,2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。」とプロフィールにある。)は,マクロ経済学による思い込みをこれでもかこれでもかとバッサリ切り捨てているので,マクロ経済学に沿っていない!といった批判は,有効ではないのではないかと,素人ながら思う。
 途中までは,日本の今後にずい分悲観的になってくる。しかし,後半,著者は,「ではどうすればいいのか」と処方箋も提案してくれる。
 そのひとつが「女性の就労と経営参加を当たり前に」である(第10講)。現役世代の専業主婦の4割が働くだけで,今後どっと退職年代に入る団塊世代を補えるというのである。日本の経済界,企業社会はこれまで男社会で,女性の参画促進に全く本気ではなかった。しかし,男だけ生産や経営を担うというスタイルは,日本経済にとってかなりのマイナスということに気づくべきであるという。女性を単純労働として便利使いするだけではなく,経営に参画する女性を増やすことが,女性市場を開拓する上で必須でもある。
 著者が以上の処方箋を説くと,「女が今以上働くとさらに子どもが減るのではないか」と“副作用”を懸念されることが多いという。これまた根強い思い込みである。統計からすると,日本屈指に出生率の高い県こそ,女性就労率も高い。さらに,共働き夫婦の方が,専業主婦のいる家庭よりも,子どもの平均数が高い。その理由は何かはおくとして,「女性が働くと子どもが減る」という命題は統計によって明確に否定されている。
 待ったなしの日本経済への処方箋という「経済面での男女共同参画化」論には,女性の自己実現!という側面はむろん省かれているが(本著の目的とはズレるのでその点の省略をうんぬんするのは野暮だろう。),だからこそ,本著もベストセラーになり,各地で講演にひっぱりだこという著者の主張は,日本経済の男女共同参画化を強く促してくれるのではないか。その他の処方箋である「労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受入を」は,3.11後の原発問題を受け,相当期間難しくなるだろう。男女共同参画化の推進が,いよいよ喫緊の課題になっている。
 なお,著者によると,「出生率向上」は,目下の生産年齢人口減少ストップへの処方箋にはならない(これ以上下がらないように努力することは大事としつつ)。出産適齢期の女性の数の増減という絶対的な制約要因等による。それでもなおなぜ出生率のことばかりが取り沙汰されているかといえば,もの言わぬ若い女性に責任を転嫁できて,男性は傍観者気分になれるからではないかとのこと。このようなビシビシとした物いいに,鼻白むむきも多かろうが,私は拍手したい。
 3.11後,先行きの不透明感にハタと気づかざるを得なくなったこの国の多くの人にとって,読むに値する一冊である。(良)                     
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