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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
椎名軽穂『君に届け』1巻〜23巻 集英社 2006年〜2015年

 いやー…。はまりにはまる。どっぷり。私は漫画は一気に読む。大人買いして、あるいは借りては、睡眠時間を削って一気に読み、さらに「復習」のため繰り返し読む。それが常だが、これはもう暗記するほどまで。暗記するまでに達したのは、『のだめカンタービレ』以来(どうでもいい)。かろうじて、社会人の責任感が寸でのところで「君に届け」廃人になるのを抑えてくれたような…。
 弁護士、あるいはフェミニストとして、あれこれツッコミたくなるところはある。主人公の爽子が陰気だ不気味だと風早以外の同級生のみならず担任からも嫌がられ避けられる当初は、つい、「弁護士に相談すればいいのに!親はなぜ気づかないっ!内容証明出したるっ」と息巻く。しかしまあ、「いじめだっ」と内容証明を出して学校側に善処を求めたりしたら、クラスの中心、人気者の風早くんが爽子に惹かれるという展開にはなるはずがないのだ…。爽子がそんな仕打ちに憤ることもなく、頑張って周囲に馴染んでいく健気さに、風早くんは惹かれるのだから。子どもの権利弁護士は出る幕なし。
 不気味がられる女子が、思いがけなくクラスの人気男子と両想いになる、「ありのまま」で可愛いと認めてもらえる。その過程で、ヘンな噂を流して再度孤立させようとしたり、トイレで取り囲んで踏みつけたりするのは女子たち。う。意地悪な女たち、救ってくれる王子様(実際、漫画中で風早は「王子様」と呼ばれることも)。虐げられても健気に立ち回る女子が王子様に出会うことでプリンセスに…。この構図ってあれよね、凡百のプリンセスものよ、シンデレラとか白雪姫とか。それにやたら爽子に編み物とかクッキーづくりとかさせるのも、女子ってこうあるべし的に強調しているよね、と私の理性がささやく。
 さらに単なるすれっからしの中年としては、風早くんのようにスクールカーストの上位にある男子がその周囲の物差しから全く自由であるはずがない、風早くんが「ありのまま」の爽子を好きになるなんて、多くの女子読者にうっとり「こんなふうにいつの日か憧れのプリンスがありのままの自分を好きになってくれるかも…」と妄想させる「これだから少女マンガはっ」という夢物語、そんな甘い話あるわけないっ、妄想から目をさませ、と読者に言い聞かせたくもなる。そういう物差しを無視するところがカッコイイんだと描いていても、ねえ、それでもねえ、と物語を成り立たせないようなナナメなことをぶつぶつ…。
 しかしね、と、よろよろと「君に届け」廃人の部分が擁護に回る。女子の分断もあるけど、あかねや千鶴、それから当初はいじめをしかけてきたくるみちゃんだって、爽子と深く支え支えられる。プリンス風早くん自身に、実は怒りっぽいし自分勝手だし、爽やかでもなんでもないと自認させる。勉強も爽子のほうがずっとできる。「木綿のハンカチーフ」(古いっ?)とは反対に、風早くんが地元の狭い社会に残り、爽子の方が地元を離れ広い社会に飛び立っていく予感も濃くなっている(今後の展開に期待)。爽子・風早カップルのほか、千鶴・龍カップルなど、独占欲を自認しながらも、それではいけないとわかっていて、他方の選択を尊重しようとしているのもgood。あかね・ケントカップルのように、結局別れることになっても、自分の気持ちと他方の気持ちを見据えて向き合おうとしているのが清々しい。
 細部のギャグもいいし。読んでいる最中は、一応のぶつぶつ分析は措いといて、ひたすらはまっている。ま、結局は恋バナの王道、サイコー!真夜中に背中丸めて膝のぬけた芋ジャーでにやにやしながら読みこんでいる四十路の女の姿を客観的にみれば、それも離婚事件の起案の後にどっぷり読みこんでいることを想えば、かえって鬼気迫るものがあるような気もするが、サイコー!(良)
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