判例 女友だち 映画ウォーキング 情報BOX わがまま読書 リンク おたより欄
わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
近藤聡乃『ニューヨークで考え中』亜紀書房 2015年

 近藤聡乃さんの漫画『A子さんの恋人』の毒とユーモアが大好き。さらりとした線からなる絵も文章と同様、くどくなくて読みやすい、そして小洒落ている。ニューヨークでの生活をつれづれなるままに描いたこちらのエッセイ漫画も、爆笑したりぐっと感動したりといったことはないまま、「ああそうだろうなあ」と腑に落ちたり、クスクス笑えたりする。
 1年だけのつもりでやってきたニューヨークに着くや、「つまらない道端のチンケなスーパーの前で」、近藤さんは「そうだ。このままニューヨークへいよう」と決意する。それから4年以上経過。しかしその決意には、一昔前の日本人アーティストならあったかもしれない「ここニューヨークで大成しようっ」といった気負いはない。ちょっとその手前のストリートの紅葉の木々の間のリスでも見つけて高揚したのだろう、といった具合だ。
 全体としても、「ニューヨークではっ!!それに比べて日本はっ!!」という力強い気合いはない。冒頭の「未踏の地」も大仰なタイトルだが、ある初夏の日にランドリーに行こうと外へ出て、日陰を目指しいつもとは違う側の歩道を歩きながら、「こんな目と鼻の先に踏んだことのない場所があったなんて」、さらに、考えてみたら家の中にも部屋の隅っことかに踏んだことのない部分があるはず、28年間住んでいた実家の前の通りだって反対側は「あんまり歩いたことないな…」とうつらうつら思う、そして洗濯物を取り込みながら「今度帰国したら踏んでおこう」と内心思いつく、というもの(でも、結局帰国しても反対側を歩くのは忘れてしまうそうだ(笑))。こんな調子で、ニューヨークで頑張ってたくさん経験していろいろ成長してますっ、と披露するのではなく、あ、そういえば、と日本でもどこでも見つけるぼそっとした気づきをほのかに楽しみ、つづってくれる。
 気負いはないが、ニューヨークに外国人である日本人として経験する面白いエピソードは多数(服装や日焼けを気にする/しない、寒暖に対応する服装をする/寒暖を気にせず適当、質がよく気の利いた物が豊富な画材売り場/質が良くない上種類もない画材売り場、クリスマス時の生のもみの木売り場、etc.)。日本語の勉強を始めたアメリカ人の恋人にされた「最近の一番難しかった質問」=「あのさあ、あの、かわいい平仮名なんだっけ?」。答えは「ふ」、「鳥が飛んでいるようでキュート」だそうだ。なるほど。ギリシャ人大家や行きつけのベーグル屋のイケメンのエジプト人などとのやりとりも、ほのぼのと楽しい。
 等身大の観察眼でつづられた本著を読みながら、自分自身ニューヨークで考え中といった気持ちになってくる。(良)
Copyright(C) 2001 GAL. All Rights Reserved.
 
TOP BACK