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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
『花降り』(道浦母都子 2007年 講談社)

 歌人道浦母都子の初の小説である。
 章の始めに短歌が1首掲げられて、イントロとなりエッセンスとなっている。たとえば、啄木の「正月の四日になりて/あの人の/年に一度の葉書も来にけり。」で小説の扉は、開かれる。
 中学時代の初恋の人に同窓会で出会い、賀状のやりとりが始まる。糸桜の満開の室生寺・大野寺で、二人は意図したようなしないような再会を果たす。それから二人は桜の季節に桜を訪ねて心を通わせる。
 男は妻子があり、母を自死で失っている。女は離婚歴1度、大阪のマンションに一人で住む。
 中年の結局は実らぬ恋は、あでやかな桜、はかない桜に彩られいっそう美しい。障害のある子を介護する男の家族を盗み見た女は男と別れ日本を捨てる決心をする。その旅立ち前の男への最後の便りという形式をとる本書に、日本語の流麗なリズムを再発見する思いである。
 小説にしては珍しい「あとがき」に「美しいと思える愛であってほしい」という言葉が見られるが、著者の恋愛観、子産み・子育てに対する思いが行間ににじみ出ていて、切ない。そして平和への祈りが、繰り返し出てくる沖縄の歌に象徴されている。
 最近の小説を読みなれた人には刺激が少なくて物足りないかもしれない。しかし、イタリアンもおいしいが、さらりと喉越しのいいそうめんも、日本人はきっとおいしいと思うに違いない。
 「ただ一度この世を生きて自らのいのちと思う一人に会いぬ」。著者自身のこの歌で幕は閉まる。
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