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栗原康『村に火をつけ、白痴になれ』岩波書店 2016年

 すごいタイトルだ。サブタイトルに「伊藤野枝伝」とあればどうしても読みたくなる。それがまた岩波書店発行というのだから驚きだ。
「貧乏に徹し、わがままに生きろ」
「夜逃げの哲学」
「ひとのセックスを笑うな」
「ひとつになっても、ひとつになれないよ」
「無政府は事実だ」
という目次にも、びっくりするが、「はしがき」は福岡の今宿にある野枝の墓を訪ねるところから始まる。故郷の人々はいまだに野枝を嫌っているという生々しい証言と何かおどろおどろしい自然石の野枝の墓の写真、「あとがき」は著者の恋愛話で締めくくられているから、これにも唖然とする。
 貧困の中でも好きなことには貪欲で(著者は「わがまま」という表現を用いている)、猛烈に勉強もすれば、激しい恋に生き、2人の夫の間に7人の子を産んでいる野枝の激列さが著者に乗り移ったのか、文章も大変に奔放で行儀が悪い。
 巻末にはきちんとした出典注もあるし、世に有名な「貞操論争」「堕胎論争」「廃娼論争」も要領よくまとめられているのだが、野枝の論に加担して著者はこんなふうに自分の感想を付け加える。「やばい、しびれる、たまらない。ほんとうのところ、こういう論爭に勝ち負けなんてないんだが、野枝が圧勝している気がする。ああ、習俗打破、習俗打破。」
 野枝は意外にも下町の女工たちと気が合わなかったらしい。労働者だろうとその気風や流儀を押し付けられるのは絶対に嫌なのだ。「みんながみんな、労働者に評価される生き方をしなければならないのか。主人も奴隷もまっぴらごめんだ。はっきりいわなくてはならない。女工、ムカつく。イヤなものはイヤなのだ。」銭湯でゆっくりせっけんを使っていたことを女工たちに見咎められ非難されたことに対する怒りだ。風呂は好きなように入りたい、石鹸だって使いたいだけ使いたい。何が悪い!というわけだ。
 関東大震災の直後、野枝は大杉栄と甥の宗一とともに甘粕正彦大尉以下に惨殺される。野枝28歳。末っ子を産んでからまだ1カ月。疾風怒濤の人生を走り抜けた伊藤野枝が本書によっていくらかよみがえったのではないだろうか。乱暴な文章の癖は好き好きあるだろうが、この本に関しては成功していると思う。ちなみにタイトルの言葉は野枝自身のことばではなく、著者が野枝の作品から読み取った野枝の叫びである。(巳)
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