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新川明日菜著『ママまた離婚するの? 離婚家庭で育った子どもの気持ち』東京シューレ出版 2013年

 離婚の本はたくさんある。しかしほぼ全てが離婚する当事者向けだ。離婚家庭の子どもをテーマにした数少ない本も、子どものことを慮って書かれているにしても、専門家=大人によるものだ。新川明日菜さんによるこの本は、離婚・再婚家庭を経験した子どもだった当事者によるものとして、それだけでとても貴重だ。
 時に激しくぶつかった母を、明日菜さんは「大っきらい」になったこともある。かつては「大好き」だったのに。今は、「まあまあ好き」でもあり、感謝もしている。その過程ではどんなすれ違いがあったのか。しかしどんなことを機に信頼が決定的に破壊されずそして修復していけたのか。真っ正直につづられる。明日菜さんもお母さんである新川てるえさんも、離婚後の親子への支援活動をしている。「営業」的には「私たち親子、こんなに上手くやってきました!」というほうが得策かもしれない。でも明日菜さん(そしててるえさん)も、そんな「営業」戦略はとらない。どんなにぶつかって、ぎくしゃくしていたかを、真っ正直に伝えてくれる。
 感動的なのは、実の父との再会だ。ゼロ歳のときに別れた父と、明日菜さんは、一度も会ったことがなかった。お母さんは、聴けば何でも説明したという。離婚したときは、父はまだ若すぎて子どもを育てる覚悟がなかったこと、今は再婚しているらしいこと。それから必ず「会いたいと思えばいつでも会わせてあげるからね」と何度も言われたという。そのたびに、「別に会いたいと思わない」と答え続けた。このあたりでお母さんであるてるえさんに「ほー」と感心してしまう。とても嫌な思いをして別れても、父親は父親、子どもが会いたいなら会わせてあげたい。そういう度量がある母を、子どもは信頼するだろう。なお、DVなどがあって、到底会わせられない場合もあろうから、そういう場合に会わせない親を心が狭いといっているわけではない(念のため)。
 てるえさんが明日菜さんの父と弟の父それぞれに養育費を求めて家庭裁判所に調停の申立てをしたところ、明日菜さんの実の父は応じて、養育費を支払うようになった。てるえさんは、明日菜さんに、「今月も入っていたよ。会ってみたくなったら言ってね」と言い続けた。ん?養育費を受け取る前から、会わせようと思っていらしたのだ(ますますてるえさんに感心)。それでも1年以上明日菜さんの気持ちは変わらなかったが、誕生日に、1万円多く振り込まれたと聴いて、心が動く。誕生日を覚えていたんだと。父親が自分のことをどう思っているのか…確かめたくなって、会うことにする。高校1年生の夏休み、緊張して待ち合わせ場所に向かうと、すぐわかった。タイ料理店に入って席についたとたん、「その人」は真剣な顔で「今まで何もしてこなくて本当にごめん。俺には明日菜以外に子どもが3人いるけど、明日菜のことはずっと忘れていなかったし、長女だと思っている」と赤ちゃんだった明日菜さんのボロボロの写真を取り出した。ずっと持ち歩いていた、今日娘に会えるんだって会社のみんなにも話した、子どもたちにもお姉ちゃんがいるんだぞとずっと話していた…。「まるでテレビドラマみたい」と戸惑いつつも、嬉しくなった。「その人」は言う。「会ってどんなに暴言を吐かれても仕方ないと思っていた。でも明日菜はこんなによい子で俺のことを許してくれるなんて驚いている。こんなよい子に育ててくれたママに感謝してもしきれない。」明日菜さんは「その人」を「お父さん」と呼ぶことにする。−このくだりを読んで胸が熱くなり涙がいっぱいになった。離婚しても、父母間にこのようなリスペクトがあったら、どんなに子どもは救われることだろう。明日菜さんも、てるえさんが会わせてくれたことに感謝する。そして、父との面会は、明日菜さんにとって、大きな精神的支えとなった。心のどこかで、「父に捨てられた」と思っていたからか、自己肯定感が低かった。それが「愛されていた」ことがわかって、自己を否定する気持ちから解放されたという。
 もちろん、こんな感動的な面会交流はそうはないかもしれない。緊張して気まずいままのこともあるかもしれない。ただ、父母間にリスペクト(そこそこの、でいいはず)があれば、子どもは父母を信頼し、自己を肯定できる。とても大切なヒントを得たように思う。
 感動的な再会の後も、素晴らしい交流が続いたか…というとそういうわけではない。再会から1年も経たないころ、養育費の支払いが途絶える。ここでまたてるえさんの反応が素晴らしい。「お金がなくて払えないのよ、きっと。減額してでもいいから払い続けてくれたらいいのに。そういうところ、かっこつけたがるんだよね」。こうさらりと言ってくれたからこそ、ショックというより、子どもの明日菜さんも淡々と「ああやっぱりな」と受け止められたのではないか。誕生日前に、明日菜さんから会いたいとメールをしても、お父さんは仕事が忙しい、都合がついたら連絡すると答えたままだった。明日菜さんは「都合がつかないんじゃなくて、お金がないんじゃないか」と察する。ようやく3年ぶりで再会したが、そのときの父の発言に呆れ、ショックも受ける。母が離婚したのもしかたないと受け止める。でも、何か憎めない。さらに4年後、明日菜さんからごはんを誘ったが、2度、どたキャンされる。後ろめたい何かがあるのだろうとさらりと受け止める。今では、父からメールが届くのは、正月と誕生日くらい。それでもほっとする。15歳で再会したときは、きらきらと美化されたが、しかし今では、情けないところも十分わかっているし、それでもお父さんに会えて良かったと心から思っている。
 なるほど!!あまりに情けない他方の親に会うと「ショックを受けるから」「感化されるのではないか」と先回りして、会わせないほうがいいと思う親もいる。でも、大丈夫。そもそも、情けないところがない親なんてない。もちろん、暴力をふるうような親で危険なら話は別!子どもも会えば、そのうちわかる。そんな親でも親は親。情けないところも含めて、子どもも受け止められるのだ。
 明日菜さんにとって、母親の態度は「離婚や再婚は親の問題。あなたには関係ない」と言っているみたいだった。しかし、母親から、「そんなふうに感じてたなんて知らなかった」「子どもの気持ちを聞くのが怖いのよ」等と言われて、母親も聴く耳を持つべきだったけど、自分も自分の気持ちを話していたらよかったのではないかと思う。20歳のときにお母さんがダイヤモンドのネックレスとともに渡してくれた育児日記。そこには、出産記録が事細かに書かれていた。無責任な父に苦労していた様子、離婚したとき、必死に子どもを育てようとする決意…。「強すぎる鉄の女」と思っていた母が、23歳の当時は、か弱いのに、子どもに大きな愛情を持っている母だった。大嫌いと思っていた気持ちがすーっと消えていった。ここでも私も涙が止まらない。どんなに傷つけあっても、大丈夫、愛情が伝われば、後からだって、修復できるんだと。
 離婚事件専門の弁護士として、目から鱗、腑に落ちる「格言」が多々。離婚事件の現場ではある程度大きな子どもたちには子どもの意向調査についてとても繊細な配慮を要するとされている。離婚する親向けの書籍等にもそんなことが書いてある。確かに繊細な配慮は必要だが、しかし、「どちらの親と住みたいか直接聴くのは、子どもに酷」と気を遣うあまりに、子どもを蚊帳の外に置いてはいないか。明日菜さんはいう。「酷?どうして?それってつまり、親の決断をただ受け入れて、離婚後の生活を送るほうが子どもにとっていいってことになるよね?そんな勝手なこと誰が決めたんだろう?」中には「僕に聞くな」って子どももいる。それ自体も子どもの意思だ。子どもの気持ちを聴いてくれずに勝手に話を進めることのほうが、よっぽど酷。「もちろん、子どもが希望を伝えたとしても、その通りにならないかもしれない。」それでも、自分の気持ちを聴いてくれた、その事実が大切だと、明日菜さんはいう。本当にそうだなあ…。その他、親だけではなく、離婚事件に関わる弁護士としても、心得ておくべきことがたくさん詰まっていて、必読テキストとして推奨したい。
 「私のママは3度の結婚と3度の離婚をした…」との帯を読むと「お母さん奔放なのね、うちとは違う。うちは離婚してない。大変だったでしょう…うちの子とは違う悩みがあったでしょう」と、他者目線(上から目線)になってしまうかもしれない。しかし、離婚・再婚を経ていようと経ていまいと、悩みや葛藤を多少でも抱えていない家族など、いないのではないか。親密だからこそ、時に傷つけあってしまう、そんな親子という関係に苦労する人全員に、大切な本となろう。
 明日菜さんもてるえさんもいつもバランス感覚もあって優しく、大好きな人たちだったが、本著を読んで、その「営業」的には不器用、だけどとても誠意のあるお2人をますます尊敬し、大好きになった。だからこそぶつかりも激しかったことだろう。でもそれをうまく潜り抜けたお2人だからこそ、痛みを抱えたひとたちにどこまでも受容的で優しく接することができるのだろう。リアルな知り合いだから割増評価?そんなことはない。本著を読んだら、ほーっと救われて、私の絶賛が贔屓目でないことがわかっていただけるはず。(良)
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