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松田秀樹『少子化論 なぜ結婚・出産しやすい国にならないか』勁草書房 2013年

 本書は、少子化の要因をめぐる従前の研究を踏まえた上で、エビデンスを踏まえて少子化の要因を分析し、重点的に実施すべき少子化対策を提案する。
 エビデンスに基づき、少子化社会を食い止める手立てを考えねば…という著者の思いと、「様々な家族、ライフスタイルがあっていい。その多様なライフスタイルを尊重してほしい。(そうすればあわよくば子どもだって産もうと思う人が増えるかも?)」という私の思いはずれている。そこで、エビデンスに基づき、「これは少子化の要因ではない、この対策はもう十分。こっちの対策に重点を置くべし」という著者の分析、提案は、必ずしも私にとって嬉しくなるようなことばかりではない。まあ、仕方がない。エビデンスはエビデンス。
 たとえば、少子化対策は、家族形態が性別役割分業夫婦という典型から共働き世帯が変わったという変化に対応すべきとして、保育と両立支援という共働き世帯向けに行われがちであったが、未だ夫は仕事、妻は家庭という性別役割分業を行う典型家族が多数であると指摘する第1章は、以下のように議論を展開していく。子どもが小さいうちにも継続就業を希望する女性は2割にとどまる。とすれば、この約2割向けではなく、マスを占める典型的家族を望み実践している者向けの対策こそ必要である。となると、子ども手当、高校授業料無償化などの経済的支援、一時保育などの拡充が優先課題となる。所得制限のない子ども手当への誤解に満ちた批判への反論は小気味よい(今更ではあるが…)。とはいえ、現状の保育事情や賃金格差が解消されたら、子どもが小さいうちにも継続就業を希望する女性は割合が増えるのではないか、結局典型家族の上、夫の収入が低め安定だと子どももあと1人、2人産もうとしないのではないか…などと、ぶつぶつつぶやいてしまう。いやしかし、本著はあくまで現状のエビデンスがスタートなのだから、不満を抱くのはもちろん筋違いだ。
 第2章「若年層の雇用劣化と未婚化」では、寒々としたデータがいくつも紹介される。結婚したいかしたくないかは非常に個人的なことのようだが、「非正規雇用で収入が低い」男性は結婚が難しいことは、歴然とした事実である。著者は、過去20年あまりの未婚化の最大の要因は、「若年層における雇用の劣化」と指摘する。非正規雇用者が増え、若い正規雇用者の収入は低下した。これにより特に若い男性は結婚意欲を失った。そして、雇用の劣化は、若いカップルの結婚・出産の障害になった。となると自ずと優先すべき対策は、若者の雇用対策、非正規雇用の夫婦が出産育児しやすい環境の整備である。
 第3章「父親の育児参加は増えたのか」。「イクメン」という造語などからあたかも父親ブームが到来しているかのようであるが、父親たちの育児参加は依然少なく、育休取得率も低いままである。「男性の意識啓発や同僚上司の理解促進が必要である」などと語りたくなるし実際語られてもいるが、著者は、育休取得を促すなら、マスである典型的家族の男性も取得しやすいものに変えなければならないと淡々と指摘する。そして、父親を家庭から遠ざけている最大の要因は、労働時間の長さであるから、労働環境を改善し、過度な長時間労働を抑制すべきであるとする。
 第4章「企業の両立支援の進展と転換期」は、両立支援に人材の採用定着の効果はあったが、モチベーション向上にはそれほど強い効果はなく、業績向上の明瞭な効果はみられない(当たり前のことだが、企業に利益をもたらすのは、ビジネスモデルであり、人事関連制度の一種である両立支援のありかたによって、企業業績ががらりと変わるはずもない)。
 第5章「都市と地方の少子化」は、地域によって少子化の要因は異なり、各地域にあった対策が必要であるとする。考えてみれば当然のことだが、国が都市に見合った「保育所の待機児童対策」を主導すれば、待機児童などいない地方の自治体も力を入れるという「右ならえ」状態だという。なんと無策、と地方をそしるのも気の毒ではある。国から地方への予算が認可保育所の運営費といった個別の施策ごとに配分されていたことにも原因があるのだから。
 第6章「国際比較からみる日本の少子化」は各国との比較に基づき、あらためて、若年層の雇用の劣化への対策、子どものための手当の充実、非正規雇用者向けの育休の整備といった拡充すべき施策について提案される。子ども手当への誤解に基づく批判への反論が繰り返される。少子化を大問題であるとする保守的な議員たちこそ、こぞって少子化対策に効果的であった施策をほうむろうとし現に逆行させた。なんと皮肉なことかと嘆息する。マスコミも子ども手当を「バラまき」などと不勉強なまま批判したこと、市民もそれを鵜呑みにしていたことを思い出し、つくづく情けない。
 私の手元にあるこの本の奥付には、「2013年4月1日第1版第1刷発行、2013年10月10日第1版4刷発行」とある。社会学の本としては(社会学者に失礼か)、稀有なスピードではなかろうか。それだけ「少子化」を危惧している人が多いのだろう。しかし、それでも、エビデンスに基づき今までの政策を検証し今後の政策を構想するというよりは、「第3子以降の出産・育児・教育への重点的な支援」といったますます「どこからくるのその思いつき?第3子を産まないことが少子化の原因なんだっけ?」とツッコミどころ満載の思いつきが、うやうやしく政府の「骨太の方針」としてぶち上げられる一方(そのほか「外国人に家事労働を」といった思いつきもある)、本書中各国比較から効果ありと指摘される所得制限のない子ども手当の支給などは所得制限が復活するなど、「少子化対策とは少子化推進対策のことなのか」と思うような狂想曲が繰り広げられている。不思議なことだ。(良)
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