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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
重松清『ビタミンF』 (新潮文庫)他

 「お前、三浦綾子よく読みよったけど、なんで好きなん?」と父に聞かれた。『氷点』に始まり『泥流地帯』や『母』など、実家の書棚には、私が集めた彼女の本がずらりと並んでいる。私が東京に出てきてから、父が読むようになったが、父にはどうもおもしろいとは思えないらしい。

 確かに高校から大学にかけて彼女の本はよく読んだ。三浦綾子が他界した時も一定以上の感慨をもって、ドキュメンタリー番組を見た。が、最近はもうページを開けることすらなくなっていた。だから、なかなか答えが見つからなかったが、それでも敢えて答えを探すとすれば、「なんか、『人間の駄目な部分』をこれでもかっていうぐらい描いているから」だろうか。ただ、そんな答えを父に面と向かって言うのは気恥ずかしかったので、言葉には出さなかった。その代わりに、「最近は、重松清なんかええと思って読んどんよね。お父さんも読んでみれば。おススメよ」と、私の中ではつながっていても、多分父には何の脈絡もないように感じられるだろう返事をした。

 重松清は「人間の駄目な部分」を赤裸々に描いている作家で、私が最近気に入っている作家だ。数年前に大学の生協で平積みされていた『ナイフ』を読み、それからしばらく経って『カカシの夏休み』で復活した。重松は、『見張り塔からずっと』『ビタミンF』など、一貫して家族や教育を題材として取り扱っている。私はどちらかと言えば短編が苦手だが、重松の作品の場合、共通したテーマで描かれているために、短編でも長編を読んでいるような気にすらなる。

 中年と呼ぶにはまだ早い30代後半の「中途半端な」男性が主人公になることが多い。夫として、父としての役割に苦悩し、という言うほど重苦しい雰囲気が作品に漂ってはいるわけではないが、子どもが抱える問題(大人から見れば「教育問題」とでも言うのだろう)に立ち向かったり、逃げ惑ったりする父親の姿が、そこにある。時に、子どもの問題を境に浮き彫りになってきた夫婦の溝が、とてもリアルに描かれもする。

 私がいじめられていた頃、父はどう感じていたのだろう。家族にいろいろあった頃、父は逃げたかったのだろうか。50代半ばを過ぎて、少し年をとってきた父に聞いてみたいことが、重松の作品を読む内に出てくるから不思議だ。もう少し作品を読み集め、実家にある三浦綾子の作品に負けない重松清コレクションが完成したら、実家に送ろう。久々に、母宛でなく父宛に短い手紙を書くのもいいかもしれない。どうして重松清を好きか、どうして三浦綾子を好きだったか、を書き添えて。
 父は重松清を好きになるだろうか。              (鴨川明子)

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