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前泊博盛編著『本当は憲法より大切な「日米地位協定」入門』創元社 2013年

 本当は憲法より大切な…。
 そんなばかな。憲法は日本の最高法規だ。「ん?」と人目をひくため編集者がつけたキャッチ―なタイトルだろう。そうなめて読みだした私は甘かった…。そんなばかな、はタイトルにではなく、この日本という国に対していうべきなのだ。そして、ぼけっとしていた私も相当ばかだ。普天間基地「移設」問題、オスプレイの強行配備、TPP参加問題、改憲への動き、集団的自衛権etc.。いろいろな出来事を理解しようとすれば、日米両国の「属国・宗主国関係」の実相があらわであるというのに。両国のこの関係は、単に劣等感や呪詛から生み出されたイメージではなく、法的な取り決めにもとづく。その中心が、日米地位協定である。
 戦後日本の国家の根幹をなす法的取決めは、残念ながら、私が大好きで子どものころ暗唱までしていた日本国憲法ではない、日米地位協定だ、と前泊教授はいう。実際にそうであることの詳細が、本著を通じて明らかにされている。
 憲法9条をノーベル平和賞に!と浮かれていたのも、沖縄だけに負担を押しつけて申し訳ない!と首をふっていたのも、十分な考えのもとではなかった、と反省する(熟慮した上で、憲法9条の意義を評価し、沖縄と向き合うべきなのだ)。
 憲法9条がありながら、日本の領土、領海、領空は、米軍が他国を攻撃するための出撃地点や通過地点としてつねに利用されてきた。核兵器ももちこまれてきた。これに学んだイラクは、アメリカとの地位協定に、核兵器の持ち込み(貯蔵)を禁じる条項、米軍が持ち込んだ物品をきちんとチェックするという趣旨の条項、米軍軍人と軍属の名簿を点検し確認する権利を有するとの条項を盛り込んでいる。現在の日本は、米軍に占領された時代のイラクよりひどい状況にあるのだ(!)。
 米軍が沖縄でできて、本土でできないことは何もない。未亡人製造機と呼ばれるほど危険なオスプレイは、沖縄と本土の上空で平均150mの超低空飛行訓練を実施する。「平均」?それ以下の高度でも飛ぶことがあるということだ。日本の航空法令で定められた最低安全高度150メートルを守るつもりははじめからない。訓練ルートの下にあるのは全国21県138市町村にも及ぶ。その上、米軍の軍用機(オスプレイに限らない)は、「基地間移動」の名目で、事実上日本のどの地域の上空も飛ぶことができる。
 2012年、野田首相(当時)は、オスプレイの配備自体はアメリカ政府の基本方針で、日本側からどうしろこうしろという話ではないと述べた。心ある日本人は激怒したが、「法的には野田首相は正しい」というのだから、言葉を喪う。自民党なら、「アメリカに抗議する」といったパフォーマンスができたかもしれないが、そのような経験が足りない野田首相は率直に事実を認めたに過ぎないのだ…。
 2004年沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した直後、隣接する基地から数十人の米兵たちが大学構内になだれこみ、事故現場を封鎖し、日本人を排除した。沖縄県警の警察官も現場に入れず、マスコミの取材活動も威圧して排除した。植民地同然の風景。しかし、米軍のふるまいには、法的根拠が(!)。日米地域協定が結ばれたときに、日本国の当局は、米軍の財産について、捜索、差押え、検証を行う権利を行使しない、という合意もなされているのだ…。
 米軍関係者は出入国審査を一切受けずに基地に到着したり、基地から飛び立ったりしている。基地の敷地内は実質アメリカ国内として扱われており、日本は正確に自国内にアメリカ人が何人いるかもわかっていない。その上で、何人移動するかもわからないまま「移設費用は8000人分払います」といった約束までさせられる(どんだけ水増し!税金の無駄遣い!)。
 沖縄全体の上空が米軍にほぼ支配され、半径5キロの「笑うしかないほど小さい空域」が日本の民間航空機が飛ぶのを許される範囲。「なんてひどい」と思う私のような本土の人は、甘い。東京を中心とした非常に広大な空域も、沖縄と全く同じ状況にあるのだ。米軍横田基地が一都八県の上空すっぽりそのまま巨大な支配空域(横田ラプコン)にしている。そのため、羽田空港から大阪など西方面に向かう飛行ルートを通る飛行機は、横田ラプコンを越えるため、一度房総半島方面に離陸して、急旋回と急上昇を行わなければならない(!)。利用者は本来不要な燃料経費を価格に転嫁され、時間のロスを強いられる。非常に狭い空域を不自然に急旋回急上昇しなければならないため、飛行機同士のニアミスが発生するなど非常に危険性が高くなってしまうのも、重大である。おおお。いつもなぜ羽田から千葉へいったん向かうのか疑問だった。それにはこういう理由があったのだ!
 政府だけでなく、裁判所も、この社会の人々が米軍から様々な被害をこうむっているのに、救済しなかった。米軍爆音訴訟については、損害賠償請求を認めるも、飛行差し止めは却下。低周波被害も認定し、米軍が日米間で結ばれた騒音防止協定を守っていないことも認めたというのに。米軍は日本の法律が及ばない第三者であるからと。
 安全保障関連法案により認める集団的自衛権を容認したと突如自民党の要職らが言い出した砂川事件最高裁判決(同判決は、集団的自衛権のことなど言っていない、牽強付会もはなはだしいと憲法学者からあきれられている)。しかし同判決が非常にダイレクトなかたちでアメリカの国務省から指示及び誘導されていたことについても、ひとつの章がさかれている。司法の権威を失墜させた、悪名高い最高裁判決である。司法も、この国に生きる人々の個人の尊厳よりも、アメリカのご機嫌をうかがっていた。救済のあてがない。悲しい。
 在日米軍基地を提供する代わりに、日本全土を守ってもらえるはず…。というのは、まったくの幻想。本著に紹介されている米軍の司令官らの言葉からして、「そのときそのときのアメリカの国益に従って、守ったり守らなかったりする」ことは明らかである。それはアメリカがずるいのではなく、国際常識からいって、当然の態度。首相が米議会で「友だち」とたたえたのは、ナイーブすぎて、恥ずかしい。
 地域協定は、日本だけでなく、ドイツやイタリア、韓国など、米軍が駐留する国ではどこでも結ばれているが、それらの地位協定とくらべても、日米地位協定はあきらかに不平等。たとえば、ドイツでは、米軍機に飛行禁止区域や低空飛行禁止を求める国内法が適用される。
 「地位協定の改定はありえない」という丹波實氏(機密文書「日米地位協定の考え方」執筆当時外務省条約局条約担当課担当事務官)は、「地位協定改定をやるならランクが2つ下がってもいいから担当したい」と言っていたとある。「ありえない」のか。フィリピンでは、米軍を撤退させたというのに。フィリピンのみならずA.S.E.A.N.加盟10か国内には米軍基地がない。それでも安全保障の仕組みが機能しているというのに。
 前泊教授が琉球新報の記者だったころに入手した機密文書「地位協定の考え方」、すなわち地位協定の裏マニュアルを新報に全文掲載したくだりには、ジャーナリスト魂を感じ、胸が熱くなる。ネットでも全文公開。紙面にすると8面、その部分は広告なし、紙代印刷費は社の持ち出し。20人を超す記者たちでの入力。みなで声に出して読み合わせ。これぞ、民主主義を下支えする報道の自由と知る権利の実現だ。「そんな文書ない」と言っていた外務省の幹部が怒りで声をふるわせて「これは機密文書だ。それをばらまくとはどういうつもりか」と電話をかけてきたとか。その後は、「リークしたのは誰なのか教えてくれ」とおどすような電話がかかってくる。あんまりおどされるとおもしろくないので、アメリカ総領事館でのパーティにわざわざ出かけて行って、その幹部にわざと大声で「このあいだは非常に貴重な情報をありがとうございました。ものすごい反響です」と声をかけて周囲をびっくりさせたというのが小気味よい。それで「リーク犯人捜し」が終わったとか(苦笑)。
 中学生にも読んでもらえるよう平易に書かれたシリーズらしい。平易といえるかはともかく、「集団的自衛権って?」と最近のニュースで興味を持った子ども、いや大人も、読みだしたら、止まらなくなる、刺激的な本。どのQも、手に汗握る読みごたえ(今さらか…)。
 戦後70年談話(閣議決定を受けると首相談話で、閣議決定を受けないと首相「の」談話とか…)が検討されているという。それに意味があるとしたら、この日米関係についてキャロルキングの歌など持ち出して「友だち」などと実態にそぐわない甘ったるい表現を撤回して、「宗主国・植民地」関係の見直しをいうべきではないだろうか。(良)
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