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「ジェンダーをめぐるブックガイド」 『中央評論』241号 中央大学出版部

 中央大学の学生向きに同大学の教職員が執筆した160頁ほどの雑誌だが、なかなかに充実しておもしろい。
 表題のブックガイドは「法律」「歴史研究」「アメリカ文学」「労働」「戦争」「トランスジェンダー」に分かれている。やや統一感に欠けていて当然取り上げるべき領域――たとえば「家族」「教育」や紹介するべき本が入っていないところもあるけれど、時機を得た企画である。
 つぎに小特集として「パリテ」を3本の論文で構成している。パリテとは「男女同数」という意味で、フランスでは1999年この考えに基づき選挙法が改正され、全ての政党は男女同数の候補者を立てなければならないとされた。日本でもポジティブアクションは導入されているが、ここまで徹底されていない。この法律ができる過程やそのメリット・デメリットが紹介されていて興味深い。
 しかし何と言っても圧巻なのは、森岡実穂の「キース・ウォーナー演出『ラインの黄金』『ワルキューレ』」である。オペラは脚本、音楽、俳優、舞台装置、演出などさまざまな視点から見ることが出来、それゆえに多様に楽しめる。本論文は2001年から始まったキース・ウオーナーによるワグナーの「指輪」4部作を1年に1部ずつ東京で上映しているその演出をジェンダー視点から読み解いている。実に細かい仕草、表情、身振りに意味を見ていて感心するばかりである。たとえば、論者は以下のように言う。「〈ラインの黄金〉の幕切れで、…全員がゆっくりと…ヴァルハラへの通路を行進するが、あのフライアが共に行進することを拒み、…WALHALAのLの文字の影に隠れているのである。このとき、これからの4年間で、私たちは全く新しいいきいきした女性たちを〈指輪〉の世界でみることができるであろうと確信し」た。非常に緻密に舞台を見ていなければ決して指摘できるようなことではない。その意味づけも実に的確だと思う。
 男至上主義のワグナーといわれるが、演出の方法によってこのように大胆に読み替えることができるのだと目からウロコの思いである。
 来年の「神々の黄昏」をもってキース演出の「指輪」は完結する。この論文の続編を大いに期待したい。

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