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『秘 密――パレスチナから桜の国へ』(重信メイ・講談社・2002年)

 日本赤軍最高幹部重信房子を母に持ち、パレスチナ解放戦士であるアラブ人を父に持つ美しくて聡明な28歳の女性――重信メイ。それがこの本の著者である。
 国籍も持たず、共同体のなかで複数の父と母に育てられ、難民キャンプあるいはアラブ諸国を転々とするという数奇な人生を送った前途有為の女性だ。
 国籍がないことは、奴隷よりもひどい無権利状態であるという言葉を読んだことがあるが、彼女は、無国籍者として生きた経験をポジティブに生かそうとしている。「無国籍というアイデンティティが、困っている人と同じ立場に立つ視線や、差別に対して『ノー』と言える姿勢を育ててくれた」。そして彼女は、国籍とは何か、国とは何かを問いながら国際政治の勉強をしようとしている。アラブ語・フランス語・英語を駆使しそして日本語も上達しつつある彼女が活躍できる日本でありたいと思う。日本の国籍を取得するまでのスリリングな経験が描かれているが、彼女が選んだ国籍に後悔することがないようにとも思う。「犯罪者の娘として差別され、冷たい目を向けられるかもしれない。それでも日本に帰りたいと思った」とその覚悟の程を語っている。
 幼いときからしばしば母と離れ(肌身離さず彼女が持っていた写真は二人の後ろ姿をうつしたもの。捕まったときに素性が知られることを用心したためである)、重信房子の娘であることはむろん日本人であることさえ絶対に知られてはいけないという重圧の中で育ったにもかかわらず、彼女の少女の日々も青春時代も明るくはつらつとしたものである。多分同時代の日本人と比べてもその生活、姿勢、心情は前向きでずっと力強い。すっと伸びたバイタリティのある若木のようだ。なぜだろうか。
 そして、なかでも目をひくのは母への思いの強さである。「母との絆が私のプライドである」。母の裁判の日には必ず傍聴するという。そして母はまだ日本語に不自由な娘のために本に総ルビを振るという。いまどき希有なけなげな母と娘である。でも、そこから離れて、「あの重信の娘」というレッテルなしに(七光りも逆七光りもなく)一人の人間「重信メイ」として自立する日はきっと近いと思わせる感性の鋭さ、学識の深さをかいま見せるデビュー作といえる。

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