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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
林真理子『野心のすすめ』講談社 2013年

 ときどき「握力の強い女」といわれる。現役時代にこの力がもっと強かったら原稿をたくさんつかんで良い本をもっと作ったのになあと思うのは、まだ少し野心が残っているせいか。でもいくつになってもぎらぎらと野心があるのは辛い。なーんてことは私より1世代以上若い林真理子さんには到底わからないだろうなー。

 ど迫力の表紙カバーの写真をはじめ本書に収められている写真とそのキャプションをぱらぱらと見ただけでも林真理子さんの欲望の強さに圧倒される。「『ルンルンを買っておうちに帰ろう』出版記念パーテイーは生演奏も入り、新人のデビュー作とは思えない大入り満員」「東京會舘での直木賞受賞には、通常ではありえない人数の記者が殺到した」「赤坂プリンスホテルでの披露宴。ドレスはバラがモチーフ」「カトリック神田教会で挙式。披露宴はトゥール・ダルジャン。ドレスは森英恵デザイン」…いやー、これって編集者が書いたのだとしても著者が目をとおしているはず。正直あけすけが売り物の林さんだが、センス悪すぎ。
 林真理子さんの本音の鋭い筆、いままでの女性が触れなかった女性自身の欲望(結婚願望とかやせたい願望、有名人願望など「卑俗な」願望)をストレートに(露悪的に)描いているエッセイも小説も、好きだといって、フェミニストたちから顰蹙を買っていた私だが、今回のこの人生訓の本はあまり好きになれない。彼女のような巧みな物書きでもこのような退屈な説教しかできないのか。
 学校時代のいじめ、入社試験はすべて不合格、貧乏なアルバイト時代、広告代理店時代の軽薄フマジメな生活、小説家としてデビューしてからも「文壇」から冷遇されたこと、行動が派手派手であったせいもあっての社会からの激しいバッシング…大波小波が林さんを襲う。それを乗り越えてきたのは彼女の度外れた負けず嫌い。「紅白の審査員になる」「直木賞をとる」という野心の強さとそれを獲得するための努力だ。とにかく自分が手に入れたいものがあるときのひたむきな努力はすごい。結婚をしたいと思えば何回でもお見合いするし、子どもがほしいと思えは辛い不妊治療を受けるし、ブランドの服を着たいと思えばなんどでもダイエットに励む。ここに彼女の経済力が大きく物言っているので、お金願望も人一倍。なにせオペラを聞きたい思えばイタリアに飛んで行く。それもエコノミーの飛行機なんかは絶対にお断り。それを正々堂々公言するところがすがすがしいくらいだ。消費面だけではない。林さんは、この会社ではダメだと思えばコネでも何でも頼って有名な広告塾に通って猛烈にCMを書きまくって成績上位を占める、歴史小説を書こうと思えば徹底的に資料をあさる。「背伸びしなければ成長できない。無理してでもやる」という信念と強靭な体力で林さんは自分のほしいものをすべて手に入れた。その上での説教だから、彼女自身が言っているように「上からの目線でクドクド小言」「自慢話ばかり」になっている。あげくに「自分の目標を決めたら歯を食いしばってでもがんばれ」という平凡なメッセージになってしまっているのが残念である。といっても彼女のミーハー性が「鼻持ちならない」一歩手前の救いとなっていて、縁遠い存在に必ずしも思えないところが、人気のゆえんだろう。
 というのが私の正直な読後感だが、林さんいうところの「野心」が規模がまったく小さい、そんなものは「野心」とは言わないという批判もあれば、逆にいまの若い子はこんな「野心」など持たないという説もある。いずれにしても、現代のひとりの女性の成功物語として読んで悪くないとは思うが。(巳)
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