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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
吉田秋生『海街diary』1巻〜5巻 講談社 2007年〜2012年

 吉田秋生といえば、『BANANA FISH』『カリフォルニア物語』『吉祥天女』『河よりも長くゆるやかに』etc、今を去ることウン十年前に夢中になって読んだものだ。今もなお本作品のような優れた漫画を発表していること自体に感嘆する。
 父が、母と三姉妹(長女幸、二女佳乃、三女千佳)を棄てて鎌倉を去って15年。父が去って2年後、何と母も男性と去っていった。今は亡き祖母のもとで成長し既に社会人になった三姉妹のもとに、父の訃報が届いた。
 佳乃、千佳は、一緒に暮らした歳月よりも長い歳月が過ぎて、何の感慨もわかないことに、申し訳なく思う。葬儀の席で、三姉妹は、母の違う四女すずと初めて出会う。すずの母は既に亡く、父は別の女性と結婚していた。すずをその女性には到底任せられそうにない…。幸が別れ際に、すずに鎌倉で一緒に暮らそうと言う。佳乃と千佳も大歓迎だ。すずは、行きます!と即答する。
 まずここで号泣してしまった。周囲の人は言う。その女性との関係を成就するために棄てられたというのに、「恨んで当然なのに」、よく迎え入れた、と。時にぶつかることもある三姉妹(特に長女二女)だが、この点、即座に嬉々として全員一致なのが泣ける。ひとりぼっちになってしまった四女を喜んで迎え入れてくれるなんて、お父さんにとってどんなに嬉しい供養だろうか。
 四姉妹となってからの鎌倉の生活、四姉妹ひとりひとりだけではなく、周囲の様々な人(行きつけの定食店、勤務先の病院、銀行、スポーツ店、サッカーチーム)も丁寧に描かれる。笑えるところは半端でなく笑え、泣けるところは半端でなく泣ける。
 とんでもないっ、と非難に値する人が出て来ない。三姉妹を棄てた父、母でさえも、ダメだけど憎めない、優しい人のよう。二女の(元)彼をゆする男ですら、闇を抱えた哀れな人のよう。
 不倫の果てに自分たちを棄てた父に複雑な思いを抱えながらも、妻のいる医師と交際している長女の葛藤。「いや、妻からの申し出で別居した後だし、これはもはや不倫とはいえないのでは…」と法律家として説明したくなるが、そんな助言は、おそらく長女の救いにならない。長女は長女で自分の葛藤に区切りをつける。
 鎌倉で地元少年サッカーチーム・オクトパスに入ったすず。オクトパスの少年少女その家族のやりとりも抜群にいい。キャプテンの裕也が腫瘍が出来て右足を切断する。裕也の辛さとそれに共感したくても実感できはしないことに謙虚な仲間たち。キャプテン「代理」となった風太に、裕也はチームを辞める決意を伝える。その決意を口にした裕也の思いを受け止めながらも、風太は裕也にチームに残ってほしいと伝える。あることを提案して。Jリーグを目指しながら、思いがけず足を切断し、とてつもない喪失感を抱えた友人に、こんな提案をできるなんて、なんて風太は賢く、優しいのだ。涙が止まらない。
 そう、様々な別れや喪失に直面した際の、身を切られるような思い。それを乗り越えていくことを手助けする優しさ、謙虚さ。それらを描き出すのが、本当に上手い、吉田秋生は。
 風太とすずのおずおずとした恋には胸がきゅんとする。すず以外の三姉妹の恋も素敵。
 風太の兄がサバイバルするためにヤンキー化していたといった笑える細部まで実に絶妙、抜かりない。
 良質な小説を読んでいるような気がする。今後も楽しみ!!(良)
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