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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
上野千鶴子『ひとりの午後に』日本放送出版協会 2010年

 上野千鶴子といえば,「けんかの達人」,挑発的な文章で議論に挑み,バッシングを受けても決して退かず,一層容赦ない議論を仕掛ける,しかし決して感情に流されずあくまで戦略的。アグレッシブだが洗練された知の達人,そんな存在として遠くからひそかに尊敬してきた。
 しかし,「おしゃれ工房」に連載したエッセイをまとめた本著からは,上野の違った一面が浮かびあがる。いや,上野はもともと,案外不器用で繊細な人なのかもしれない。
 上野は,自身を箱入り娘とし溺愛した父,そして母に反発していた。しかし,父母亡き今,父母の記憶を反芻し,父母を受容しようとしている。死の床にある父への軽口がどんなに残酷だったか等自身の言動を後悔する。上野にとっては決して仲が良いと思えなかったが,父母自身が夫婦仲が良い,幸せだと思っていたことを受けとめる。
 和菓子,女性ヴォーカル,井上陽水,スキー,夕陽等,好きなこと,ものの紹介は,物事に感受性豊かに向きあってこその言葉があふれ,胸に沁みいる。
 打たれ強いというのも,もともとなのではなく,学問という打ったり打たれたりする場の中で身を置いた以上作ってきた「性格」なのだという。上野も人知れず傷つきつつ,「喧嘩強い」イメージを鎧のように身につけて頑張ってきたのだと胸を衝かれた。
 ひとりでいることが苦にならない,寂しくないと書いてはいるが,教え子,友人たちとの関係を大切にしている。人に多くを求めない。だからこそ皆集まってくるのだろうなと思わせる。ひとりでもいいし,一人はさびしいと言ってもいい。
 「迷いも後悔も多かった。恥もかいたし,忘れたい過去もある。さいわいなことに忘れっぽいので,生きていられるのだと思う。」しかし,忘れた記憶や経験が現在の自分をつくってきている。今の自分は,昔の自分より,「少しはまし」になっている。忍耐強くなり,寛容になった。他人に対する想像力も,幅が出来た。還暦を過ぎてオトナになったもないかと,自分を茶化しつつも,老いて成熟してきたことを実感している。本著は,ベストセラー「おひとりさまの老後」の著者が,還暦を過ぎ,自分自身の老いを静かに穏やかに見つめる著でもある。                                  (U)
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