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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
河北新報社『河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙』文藝春秋 2011年

 読みながら泣けて泣けてしかたがなかった。
 100年以上紙齢を重ねてきた地元紙は,3・11の激震後,「明日の朝刊は制作不可能」の見込みにもかかわらず,遮二無二頑張る。役員も,デスクも,記者も,総務も,印刷も,輸送も,配達も,それを支えるロジスティック担当(おにぎり班も重要な役割)。それぞれが,被災者であり,家族の安否を心配し不安を抱えながら,それでも駆け回る。甚大な被害に圧倒されながらも,言葉を絞り出して記事にしていく。
 3月11日午後10時近くになって号外を載せたトラックが到着。無理を重ねた上にこんなに夜遅くなって号外を配布して何の意味がある?しびれを切らした営業部は疑問を抱いたが,避難所に手分けして避難所へ向かうと,道ですれ違う人が例外なく欲しがり,それでは足りなくなると制限するほど。避難所で不安に押し黙った人たちは,号外と知るや,我先にと手に取り,食い入るように読む。停電でテレビやインターネットも使えない中,どんなに新聞,それも地元紙が頼りにされているか。再認識した河北新報の人々は,その後も苛酷な状況の中で,不可能を可能にする。その奮闘に目頭が熱くなる。
 新聞の使命!とすかっとすることばかりではない。むしろ葛藤と自責の念が何度も繰り返される。
 「ごめんなさい,ごめんなさい…」石巻市上空のヘリから,小学校の屋上に「SOS」の文字が見える。白紙を並べて救出のサインを送っている。腕を振って大声で叫ぶ人々が見える。周囲は浸水している。手を差し伸べたいが,何もできない。無力感で折れそうな心を抱えながら,写真を撮り続ける。水没した住宅の二階から手をふる人,病院の屋上から手をふる人…。見殺しにしている自分,最低だ。葛藤しながらも,報道によって,救援につながるかもしれない,それなら自分の行為は有益だと願う。しかし,2か月後,その後も小学校に避難した人々になかなか救援が届かず,食料もさらには水もない状態になったことを知り,愕然とする。
 販売店の店主の妻の「配達が大好きだったお父さんへ」と題された章には涙が止まらなかった。最良の父,百点満点の夫。地震発生後も何事もなかったかのように息子たちに「配達に行ってこい。読者が待っているから」と言い,販売店にとどまって津波に流されてしまった。小学校の屋上から妻は夫がいる店が流されていくのを見るしかない。惨事を見せまいと保護者たちが子どもたちを囲んだが,娘は母の腕をかいくぐってフェンスにしがみついて,お父さーん!と何度も叫ぶ。遺体が見つかって,抱きしめようとしたら,「衛生上問題あります」と止められてしまう。でも,戻ってきてくれてうれしい。あの時,縄をしばってでも父を連れ出したら…と悔やむ二男は,別の販売店で,配達を再開した。
 原発はたくさんの人の人生を変えてしまった。福島総局の記者は,一時避難の後,福島に戻り,現地取材を重ねた。しかし,一時的にせよ退避したことで,自分が追い求めた記者像との落差に絶望感を感じ,記者を辞めてしまう。
 4月に入り,報道部で記者のアンケートを実施する。思いのほか,率直な悩みや葛藤がつづられる。仕事上の悩み以外の生活面のことも聞いた。皆,被災者である上,大変な被害を目にし,サバイバーズギルトなど精神的な負担は大変なものであり,吐露すること自体に意義があった。「大手紙は衛星携帯等を持っているのに,なぜうちはと腹が立った」など率直な不満も,切実さがある。
 南三陸町の三階建ての町防災対策庁舎ビルが津波にのまれる瞬間が連続撮影されたものの中に,町職員ら約30人がビル屋上に避難している様子が映っていた。次のコマには,ビル屋上に波がかぶり,10人程度が無線塔によじ登ったり,フェンスにしがみついたりしてこらえている。津波が人々の命を奪った瞬間をとらえた生々しい写真。凄惨なシーンでも事実を伝えることが報道の使命という見解と,「地元の人は,多分持たない」という見解にわかれる。河北新報は,「掲載を見送ろう。われわれは被災者と共に,だ。」と後者をとる。他紙は翌日の紙面で写真を使用した。正解はどちらかわからない。しかし,私は,地元紙としてどうあるべきかを考え抜いた河北新報に拍手を送りたい。
 ネット時代,伝統があるとはいえ地方紙である河北新報は広告が減少し,購読料頼みであるという。東京在住ではあるが,甚大な被害を被りながらも「被災者と寄り添う」をモットーに頑張っている河北新報を応援したいと,購読を始めた。その編集方針の維持を望みたい。            (良)
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