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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
駒崎弘樹・秋山訓子著『社会をちょっと変えてみた ふつうの人が政治を動かした七つの物語』岩波書店 2016年

 貧困、差別、暴力…社会は不条理と不公正に満ちている。それを是正するどころか、もっと悪化させるかのごとき、政治、行政。「ったくもー」と腐ってふて寝していても、社会を望むように変えてはいけない。とはいえ、お金があるわけでもない。名声があるわけでもない。人より抜きん出た才能があるわけでもない。そんな私が社会を変えられるわけないしね。
 そう諦めるより、できるところから、「ちょっと」変えてみようではないか。ありとあらゆる不公正、社会問題を一挙に変革するなんて、大それたことを考えなくていい(ふて寝したくなること必至)。自分が気がついた具体的な事実から、社会の歪みをちょっと変えられるよう、ちょっとずつ努力していく。それくらいなら、できそう。そうしてみよう。この本を読むと、そんな気持ちになってくる。
 この本には実際に「社会をちょっ変えてみた」7人のストーリーが紹介される。  自分は保活に成功したけれども、入園できなかった子どもと親たちをほっておけない、と、「運動慣れ」していない女性たちで子連れで署名運動と演説をし、杉並区の待機児童対策の充実を促した人。
 ゲイであることで自分を責めてきたが、社会にこそ問題があるのではないか、では社会を変えればいいと気がつき、性的マイノリティの政策提言活動を実践する人。
 フィリピン人向けレンタルビデオ店の店長の時に、阪神淡路大震災を経験し、外国人被災者の困難に気づき、外国人用電話相談窓口を開設した人。その後外国人の様々な問題にとりくむ多文化共生センターを設立。順調に成功というわけではなく、破産も経験する。しかし、その痛い経験から組織を立て直し、「どこでも、誰でも、現場の問題、課題に対応出来る仕組み」を作っていく。東日本大震災の時には震災ボランティア連携室の企画官になり、復興推進参与へ。現場を歩き回って、その実情を中央につなぐ。中央の情報を、最前線に伝える、中央にたどり着いた!という立身出世ではなく、ずっと現場の課題を把握し、解決しようという、その活動の積み重ねが、肩書きを変えていった、という経過が素敵だ。
 オートバイ事故で7年間寝たきり、その後車椅子に乗れるようになってから、俄然活動を始めた人のこの言葉は他の人たちも口にしそうだ。「人間は社会的な動物だから、他の人のために何かをやろうというときにパワーが出る。」その上、障害があれば、一層使命感が強くなる。いつも、介助を受け、「ありがとう」を言う側だから、「ありがとう」と言われる喜びは一層強い。人と人がつながる大切さが清々しく語られる。介助サービス、ピアカウンセリング(同じハンディを持つ人同士のカウンセリング)等を提供する自立生活センターの発足にあたって、いろいろな財団から助成金をもらった。そのためには知恵を絞った、「雨の日にびしょ濡れで行った、かわいそうな障害者が熱意を持って話している、という感じでね」というしたたかな演出もした。「男性ならスーツにネクタイ、女性ならばお化粧、おしゃれ」をして人前に出る。「意外に人は外見で判断するから」、「一昔まえの障害者」のように「汚い格好のまま」では、NGだ。さらに、助成のほか、行政から補助金をもらうために、記録をとり、詳細な報告書を示す。データを示す。「いいことなんだ!」と掲げれば実現するものではない、説得するには何が必要かを客観的に考え、「演出」のほか、地道な作業を積み上げていくことが大切、ということがつくづくわかる。
 「踊らせない」風営法を「ドアだけ閉めときゃばれないさ」とそのまま放置しやり過ごすのではなく、政治家に働きかけたラッパー。超党派の議蓮が立ち上がる。クラブの仲間たちだけでなく、社交ダンス界とも連携し、ついに風営法の改正を実現。「同じ意見の人たちだけで、そうだ、そうだ、と盛り上がっているだけではダメだと」。運動に夢中な自分たち以外にも理解してもらおうとしたことが、成功した秘訣だ、というくだりも、肝に銘じておきたい。
 区の保育政策に市民委員として参加。「病児保育をやっている若い男性」としてメディアの注目も集まり、そうこうするうち、官邸の社会保障国民会議の分科会のメンバーとなった人。そこで官僚から各省庁の意見を委員の口から言わせ、議事録に残そうとするという、霞が関の作法を知る。なんだかなあとがっくりしたのは一瞬、ならばこちらも官僚から情報を集め、自分の意見を政策に役立てることができる、と発想を転換する。そして、小規模保育を、まずモデル事業から始め、ケースを作ってから、全国の自治体へ広げていく。その過程で、「民」の立場だからこそ、与野党の議論の場を設定もする。誰がキーパーソンか、突破口を見極める。タイミングを見て動く。彼の活動からも様々な手がかりが得られる。
 NPO法を作ったロビイストにあったのは、信念と、情熱、さらに戦略性。市民運動の人たちには、戦略性が欠ける場合が多いかもしれない。政治家回りを始めたところ、彼らは「NPOは信用できない」、「自分たちを持ち上げてすぐハシゴを外す」、「妥協せざるを得ないとなったら、途端に裏切り者呼ばわりをして後ろから撃つ」、と言われたそうだ。政治は妥協の産物というのに。なるほど、とも思うが、事がらによるのではないか、「人権や差別の問題で妥協されるのはたまらない」という気持ちも残る。「ピュアすぎ」て、何も変えられないのだろうか、とも思いつつ。。。一年生議員にも回る、「基本はボトムアップ」(ある政治家に「NPOって、えらい議員のところしか行かないから、イヤなんだよな」と言われたとか)、という点は、目から鱗である。基本は人間関係、思わぬ人が助けてくれることもある。
 「はじめに」にあるこんなフレーズに、大きく頷く。「せっかく生まれてきたのだから、どうせ死ぬんだから、自分が死ぬ時には、今より良い社会を残したい。そう思いませんか?」
 そう強く思う。「どうせ死ぬ」→「どうでもいいや」とニヒルになってしまうのは、もったいない。せっかく生まれてきた人々が作り、持続していく社会を、ほんのちょっとでも良くしていきたい。「熱いとか言われないか恥ずかしい」etcといったためらいこそ、「どうせ死ぬんだから」大したことない!と捨てされるはず。そして、度胸だけでなく、実現するには、戦略も大切。どんな戦略を立てればいいかの具体的な助言も実にふんだんに得られる、実践的な本である。(良)
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