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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
『グランド・アヴェニュー』(ジョイ・フィールディング/吉田利子訳・文芸春秋)

 木村栄さんのエッセイ「女友だち」の「ミステリー」に触発されて読んだ。実におもしろい。
 幼い女の子を公園で遊ばせているときに出会ったほぼ同年齢の4人の女性。元ミスコンの女王でいまもその美しさを保つのに懸命なバーバラ。次々と子どもを産むおとなしい主婦のクリス。編集者で勉強熱心なスーザン。バリキャリで金持ち弁護士ヴィッキ。
 この4人の20代後半からの友情が切断されるまでの14年間の出来事がつづられているが、現代に生きる女性の問題が百科事典のようにパックされている。たとえば、
 セクシュアル・ハラスメント:子育てのため遅刻しがちなスーザンが、クビかと恐れていると「仕事を評価している」ふりして忍び寄ってくる上司。凄腕ヴィッキの入れ知恵で、示談に勝つが、職を失ってしまう。
 介護問題:スーザンはガンに苦しむ母を見舞い、ヴィッキは、妻に捨てられた父を老人ホームに訪ねては悲しみを味わっている。
 婚外恋愛:バーバラの夫ロンは女子学生と始終恋愛。ついには教え子の1人と結婚。バーバラをあっさり捨てる。ヴィッキもときどきスポーツのようなセックスを夫以外の男性と楽しむ。
 ドメスティック・バイオレンス:クリスは生理の記録までしている夫トニーのひどい暴力に苦しめられている。子どももみんな夫の味方で、無力感に打ちひしがれている。
 ストーカー:夫ロンに捨てられたバーバラは、精神の安定を欠いてロンの新しい家庭に深夜電話をして嫌がらせをする。一方、下着姿で寒空に閉め出されたクリスはバーバラのもとに逃げるが、夫のトニーは、クリスがようやく得た仕事先に脅迫の電話をしたり、つきまとってクリスやバーバラとその娘トレイシーを恐怖に陥れる。
 同性愛:クリスとバーバラの関係は友情を越えているかもしれない。バーバラのもとに夫の手から逃げてきたとき、クリスとバーバラは生涯忘れられないキスをする。この事がこの小説のキーの一つとなっている。クリスは後に同性の恋人と生活する。
 幼児虐待:バーバラは再婚直前の幸福な瞬間に、最愛の娘トレイシーに惨殺される。トレイシーは幼児時代から、母から性的虐待を受けていたといい、正当防衛を主張する。
 母娘関係:どの母と娘も必ずしも関係が良くない。一番うまくいっていそうなバーバラ母娘関係は破滅する。曇るところなにもないようなヴィッキは自分を捨てた母探しをしている。
 そして女の友情。バーバラが娘を性的虐待したなんて信じないスーザンとクリス。依頼人=トレイシーの無実を勝ち取るために友だちを証言台に立たせあざとい尋問をして友情を捨て去るヴィッキは、裁判に勝って有名人の階段を駆け上っていく。このヴィッキも行動・心理をどう解釈するかは重いものがあり、ぜひ木村さんのエッセイを読んでいただきたい。
 人種差別以外の現代的テーマ全てを網羅して見事に1本の糸によりあわせ、上質なエンターテイメントに仕上げていく手腕はすばらしい。一気に読めてしまう。さらに少女トレイシーに見事にだまされた弁護士ヴィッキはもちろん、陪審制度への苦い疑問まで含んでいる読み応えのある小説である。
 さしたる理由もなく自分の母親を殺害して(それもなみたいての殺し方ではない)ケロリとしているトレイシーの不気味さ(同年輩の子どもは彼女をなんか「ヘン」と感じているのだが、大人の目には「いい子」にしかみえない)が、さりげなく描かれているところもすごい。

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