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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
河野裕子・永田和宏「たとへば、君」文芸春秋 2011年
河野裕子ほか「家族の歌」産経出版 2011年

 2010年8月、歌人河野裕子が64歳で亡くなった。それから1年、本屋には、俵万智以来との現象といっていいだろう、歌集が積まれている。河野自身の歌集や彼女の家族の歌やエッセイをふくめて。また新聞や雑誌のコラムにも彼女の死を悼む記事がたくさん載った。
 その数あるものの中の2冊を読んだ。「たとへば、君」は、サブタイトルに「四十年の恋歌」とあるように、夫である歌人永田和宏との歌集である。この二人は大学時代に知り合い、恋をし、結婚して、子ども二人を育てた。河野も永田も現代を代表する歌人であり、歌会始の選者であり、大新聞の選歌を担当していた。本当に長い間の同士であり、ライバルであった。
 「はじめて聴きし日の君が血のおと」「たったこれだけの家族」「良妻であることが何で悪かろうか」「あと何万日残っているだろう」「わたしよりわたしの乳房をかなしみて」「君の妻として死ぬ」「絶筆」。章立てを見ただけで、二人の間にある感情の濃さに圧倒される。  河野の人気の高さは「君を打ち子を打ち灼けるごとき掌よざんざんばらんと髪とき眠る」という率直まっすぐな歌、「子がわれかわれが子なのかわからぬまで子を抱き湯に入り子を抱き眠る」といった生活の中からにじみ出た感覚をやさしい表現でうたいあげたことにあろう。
 せっかくだから相聞の歌を紹介する。
 「たとへば君、ガサッと落ち葉すくうやうに私をさらって行ってくれぬか  河野裕子」
 「きみに逢う以前の僕に逢いたくて海へのバスに揺られていたり  永田和宏」
 河野裕子は死の苦しい苦しい床で死の前日まで歌を作っている。切れ切れに発する言葉を家族が書きとめた最後の一首。
 「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」
 一方、夫婦息子娘四人(のちに息子の配偶者も加わる)がみな歌をつくるという珍しい一家のエッセイと歌を1冊にしたのが「家族の歌」。サブタイトルに「河野裕子の死をみつめた344日」とある。はしがきに「永田家のテーブルで、家族が三々五々集まって『お茶にしようか』と言いながら気軽に交わした団欒の記録」とあるが、河野裕子が亡くなる1年ほどの記録なのでもう少し緊張感のあるものになっている。普通に考えても一家全員が歌を作るというのはなかなかに厳しく息苦しい環境と思う。
 それにしてもこの2冊。二人の相聞歌集をつくる、一家4人のリレーエッセイを作ると考えた編集者の企画力が光る。(巳)
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