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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
村上たかし著『アキオ…』小学館 2016年

 帯ですでにネタバレ。「冴えない中年・アキオは“幸せ”(妻子)を守るため、間男の義父となる!」
 上司から「(おまえには)分不相応」と言われる15歳年下の美人妻トウコと3歳の娘マリ、安い給料でやっと買えた中古の上とても狭いマンション。冴えない中年アキオにとって、幸せを噛み締める毎日が続いていた。ところが、あるとき早めに帰宅してみると、「時代の寵児」感が漂う長身の美男子木崎とトウコがお茶をしている。動揺するアキオを前に、2人は土下座をする。「別れてください」と。
 探偵業の友人に頼んで2人の関係を調査してもらう。大学時代、トウコと木崎は理想のカップルと憧れられた。ところが、木崎はベンチャービジネスに失敗、トウコの前から姿を消した。失意のトウコが出会ったのがアキオ。一方木崎は堅実な成功を積み、トウコを捜し、再会。探偵業の友人は端的に、「木崎とトウコさんは運命に翻弄される純愛ドラマの主人公とヒロイン、おまえは、ストーリーを盛り上げるための邪魔者」とまとめる(でも、「オレは、ドラマってもんを観ない。主人公がキラキラしているのが、嫌いだからだ」と優しいのだが、アキオはイマイチ受け止めてない)。
 トウコは黙っているが気持ちは決まっている。アキオの結論が出るまでこそこそトウコと会ったりしないという立派な木崎。自分は悪いことはしていない、でも「人の想いは止められない」と理解しているアキオ。この段階で離婚弁護士としては、ありえない、「不貞する方もされる方もお互いを責め貶めたりするのでは・・・」とは思うが、読み進める。木崎とトウコとマリ。自分の稼ぎじゃさせてやれないような豊かな生活がマリには待っている。見事に絵に描いたような幸せ。その一方、自分は一人ぼっちの寂しい生活。悩んで悩んで出した結論は、トウコと離婚するが、その条件は、「木崎さんは私の養子になって、私を家族に加えてください」。うわ、ますますありえないっ。
 それで、新しい3人家族を目を細めて穏やかに見守ることができ、めでたし、めでたし、ということだったら、あまりにお気楽なファンタジーだ。しかし、やってみたら、あっという間に娘が木崎を「パパ」と慕うのを見てショックを受けるとか、火照った木崎とトウコの様子に「こいつら、したな・・・」と気づき自室で大泣きする、木崎の部下がコーディネートした合コンであまりに酷い仕打ちを受ける、などなど、痛さが重く、リアルである。やはり、異様なことだ。緊張感ある生活で、誰もがストレスがかかる。リベラルを自認し、「多様な家族のあり方があり、それぞれのライフスタイルの選択を尊重しましょう」と言ってみたりする私だが、この関係は無理がありすぎ、きつすぎる。
 数年かかって離婚を実現するのを待つよりも、またアキオが不幸になるのをよそに幸せにはなれないと木崎は腹をくくったが、トウコにとってはどうなのか。イマイチ、トウコの視点が薄い。トウコにとっては元夫が夫の父として同居しているということは、ストーカーが同居しているようなものではないか。元夫による凄まじいリベンジではないか。幾らかの慰謝料を支払った方が、よほどいい。元夫のとんでもない条件を受けてしまう夫は自分のストレスを共有していないと幻滅し落胆するものではないか。やはり最後になって、アキオは勝ち目のない戦いを決意するのが不穏だ。それは中年男性読者にとっては滑稽で悲哀を感じるオチで済むかもしれないが、女にとっては怨念に満ちたストーカーと同居するというホラーである。
 悲哀にグッときたり、ホロリとなるシーンもある。しかし、仕事柄、一層の修羅場を予想し、三者がそれぞれ「法律相談に来てくれたら、もう少しストレスの少ない、ベターな選択をお勧めしたいなあ」とブツブツつぶやきたくなった。(良)
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