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ホスピスケア研究会監修『もしも「余命6カ月」といわれたら?今からあなたにできる53のこと』河出書房 2008年

 もしも「余命6カ月」といわれたら。動揺し、混乱する。体のこと、家族のこと、仕事のこと。さまざまな心配事で、頭がいっぱいになる。あるいは、怒りや苛立ち、恐怖や不安で打ちのめされるかもしれない。本書は、がん患者とその家族からの電話相談を受けているホスピスケア研究会が、余命告知された当事者が抱える様々な問題点と、実際的なアドバイスをまとめたものである。生きるとは、命とは…という哲学的な問いを展開するのではなく、かゆいところに手が届くような、様々なアドバイスがぎゅっと盛り込まれている。
 たとえば、家族との関係。あまりに余命にこだわり、「あと何日」などとカウントダウンしてしまい、何をしてもその数字が頭から離れず、家族などと過ごす大切な時間を失ってしまうことになれば、勿体ない。また、あまりに自制しお互い本音を探り合うというよりも、気持ちを表に出すほうが、実は衝撃を受けている家族も気持ちを表すことができ、コミュニケーションが取れるかもしれない。もちろん、家族と気持ちがすれ違うのは当然のこと。家族のかちんと来る言動にぶちあたっても、「そこに悪意はない」ということを思い出せばいい。そして、「そのとき」はいつ来るかはわからないし、死の間際に意識があることも予想できないので、感謝の気持ちは、言えるときに、折に触れ、素直に口にしていくことが大切。また、わだかまりのあった家族と、和解する、あるいは、和解は無理でも、少しだけ歩み寄ることも、やっておくといい。自分からはなかなか難しい場合は、信頼できる第三者に仲立ちを頼むのもいい。気持ちも体調も不安定で、人と会いたくないときの「断り方」の例文まで載せてくれている。
 容貌の変化などに子どもがショックを受けるのでは…などと幼い子どもに会ったり説明したりするのは、大人に対して以上に負担感があるが、子どもは情報を遮断されるとかえって不安を大きくすることもある。そして、幼い子どもであっても、心の深いところで、死について受け止めることができると信じよう。容貌の変化については多少説明が必要かもしれないし、子どもはそれでも変化に驚くかもしれない。しかし、大切な人に会って話すといううれしさには代えがたいはず。実際、私は、ある事故にあって容貌が変わってしまった人が子どもと会いたがっているのに、周囲が「子どもに与えるショック」に配慮して長く会わせなかった事例を知っている。結局その人の強い要求に周囲が折れて、再会させたところ、子どもは驚いたが、親としてすぐ認識し、交流を喜んでいた。子どもは、大人が思う以上に、深いところで、死や生を理解出来るのかもしれない(もちろん適切なケアが必要だが)。
 そして、がんとともに生きる生活について。遺産相続やお墓の見積もりや手配を家族と相談しながら進め、連絡すべき友人仕事関係者のリストアップなどもしておくと、残された家族は落ち着いて対処できる。病院ケア・緩和ケアの使い分け(それぞれの特色のみならず、待ち患者数や入院費用などのデータも)や、在宅を選択した場合の注意点(退院前に疼痛管理に長けた在宅医を見つける、いきなり在宅より一時帰宅からスタートetc.)、医療費・生活費に困ったときに利用できる制度、民間療法との付き合い方(心の支えになる面があるが、高額なものは要注意。民間療法に関係を切れと勧められても病院とは関係を切るな)、など、治療等の関係も参考になる。
 そして、大切なお金のこと。優先順位が高いのは、お金にまつわる身辺整理。資産、負債をリストアップ、生命保険の証書の保管場所、銀行の届出印はどれか…など、家族が困らないようにしておく。借金の返済が難しい場合は債務整理を。住宅ローンの返済方法を金融機関と交渉する。持家は、生前贈与。残された家族の生活の見通しを家族と話し合い、活用できる福祉サービスや支援制度を調べておく。事業や会社をどうするかは、人によっては最優先事項。おもな選択肢「やめる」「譲る」であるが、複雑な考慮要素が絡むため、専門家にまず相談する。そして、残された家族が争わないように財産を分ける相続を考え、遺言を残す。
 さらには、最期を迎えるにあたってのアドバイス。ここでもなお、「そうだな、そういうことも考えておかなくては」ということが盛りだくさんで、いざそのときがきても感傷に浸る余裕もなさそうだ。荷物を整理し、形見分けを済ませる、延命装置・献体・臓器提供についての意思表示、自分史のまとめ(ただし、自慢話、暴露、誹謗、中傷は慎む、などの注意点も)、家族との旅行、友人への連絡(病気は伝えなくても感謝の気持ちを伝えておくなど)、初恋の人やお世話になった人を探すこと(興信所選びのポイントまで!)、病院、緩和ケア病棟、在宅などどこで最期を迎えるかの判断にあたっても、イメージではなく現実的に「できること」「できないこと」の検証をしてから、など、など(まだまだ続く)。
 考えてみれば、余命〇か月、〇年、と告知されなくても、人は皆死ぬ。限りある人生をどう生きるかは、全ての人に関わるテーマだ。自分の生を生き抜き、残された大切な人たちが大変な思いをしないようにするには、どうしていけばいいか。単なる心がけではなく、とても役にたつ様々なヒントをくれる。そして、哲学的な話を正面から扱ってはいないけれども、読了すると、悔いのないかたちで死を迎えるには、生を全うすることなのだ、という当然のことに気づく。いずれ死を迎える全ての人が自らの生を大切に生きていくために、読んでおくとよい本だ。(良)
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